★★★☆☆

甲賀忍法帖(山田風太郎/講談社)

投稿日:2018年6月11日 更新日:

  • 忍術バトルが見もののエンタメ小説
  • 展開がかなり早い
  • 個人的に伊賀の方が悪者のように思えてしまう
  • おススメ度:★★★☆☆

【あらすじ】
時は、江戸時代初期。大阪冬の陣の半年ほど前のこと。徳川家康は将軍後継者で迷っていた。三代将軍を誰にするのか決めかねていたのだ。竹千代にするのか、国千代にするのか。このままでは後継争いも起きかねないと危惧した家康は一計を案じた。伊賀忍者と甲賀忍者をそれぞれ十人ずつで相争わせ、その結果によって将軍世継に決着をつけるという、なんとも他人任せで、ある意味いい加減な方法だったのだ。仇敵同士であった伊賀と甲賀の忍者は、家康が下したその断の後、休戦状態であったお互いの関係を元の憎しみのそれに戻し、生死を賭けた忍術バトルに臨むことになるのだった。

【感想など】
話の骨子は、以上のあらすじの通り。異能力を秘めた「畸型」の忍者たちが、己のもてる能力を発揮して騙し合い殺し合いを繰り広げる。その特殊能力バトルが読みどころ。そこに、いくつかの恋愛要素も加わって、単なるバトルものだけにはおさまらないものになっている。そのバトルと、恋愛の激しさ(?)は、アニメ版を観るとより一層楽しめるものになっている。というか、アニメを観てから小説を読むと、まるでアニメのノベライズ的なかんじに思える。小説の方がはるかに昔のことなのに。それほど、アニメは原作に忠実に描かれ、そして原作以上の内容的付加がなされている。是非ともアニメも観ていただきたい。

ところで、なぜ家康は、「伊賀越え」において己を助けてくれた忍者同士を戦わせようとしたのか。その前に、まず断っておきたい。家康史上最大の危機とされる「伊賀越え」において、実際に家康を助けて本国帰還までの道のりをつけてくれたのは、伊賀者だけとされている(甲賀者が関わったとは寡聞にして知らない。とはいえ、近江の国人衆も家康脱出に与したので間接的に関わっているかもしれない。まあ、よく分からない)。織田信長による伊賀攻めで滅ぼされた伊賀者を、家康は自らの勢力に加えた。その恩義に報いるため、伊賀者(土豪ら)は家康の危機を助けたとされるが、しかしこの小説はその史実と違い、伊賀者だけでなく甲賀忍者も協力して家康を助けたとされている。鎌倉時代から続く両者の確執をおさめたのは、伊賀出身である服部家の約定によるという。その改変(?)により、この憎しみ合う両者が協力しあったという創作上の設定になっている。では、なぜ家康は功労者である忍者集団を殺し合わせたのか。その理由は、おそらく本作に描かれた忍者の特殊能力ゆえであろう。あまりにも恐ろしい忍者の秘術は、これからの徳川の統治のために、家康には脅威にしか映らなかったのだろうか。なんせ、ここに登場する忍者を量産するだけで、天下を取れそうな能力者だらけだもんなぁ。

その忍者たちの能力は、アニメではなんともおそろしい特異体質の持ち主として描かれている。原作では、その体質がどういったものとして現象しているかを、科学的な根拠を通じて説明しているのがおもしろい。例えば、登場人物の一人である「朱絹」の怪出血現象がどういった原理なのか、とか。こういった解説は人によっては興がそがれるかもしれないが、私にはおもしろい。とにかく、どのような能力を持っているのかは、実際に本書を読みアニメを観て楽しんでもらいたい。アニメでは、忍者たちはおそろしい容貌をもつ者もいるなか、比較的綺麗に描かれていたが、原作ではそうではないことも描かれている。表舞台に出ることのない「畸型」の集団として。忍者に仮託しているのは、歴史の闇に追いやられた者たちがもつ怨念の形象化だろうか。それは私の僻目だろうか。なんとなく白土三平「カムイ伝(Ama)」を思い出す。

また、様々な風貌や能力を持つ忍者が登場する中で、女性忍者の描かれ方にヴァリエーションがあまりないというのが欠点か(そもそも、この時代に女性忍者がいたのかどうか証拠はないらしい)。伊賀側、甲賀側ともに、出てくる女性忍者はいずれも若くて肉感的で魅力的な描かれ方。アニメではひたすらにエロく描かれている(原作でも)。というか、かなり艶かしい。

もうひとつ残念なのは、徳川家の行く末をかけた忍者バトルのわりには、展開が速く、また、あまり活躍せずに倒されてしまう忍者がいるところか。はじめの段階で甲賀側の忍者が何人も倒されてしまうし。折角20人もの忍者がいるんだから長編で読みたかった。そして、伊賀側に「薬師寺天膳」という人物がいるせいか、伊賀のほうが悪いように思えてしまうのもなんとなく個人的にはなんだかなぁといった感じ。伊賀にも甲賀(信楽)にもよく行く身としては、まあどちらがどうでもいいんだが。

原作、アニメ((Ama))ともに面白いので、読んで(観て)ほしいと思います。

(成城比丘太郎)

(追記)先日観た、忍者関連の番組によると、家康伊賀越えの援助において、伊賀忍者と甲賀忍者は協力しあったようです。



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