3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★☆☆☆

百鬼夜行 陽 鬼童 青鷺火 墓の火 青女房【電子百鬼夜行

投稿日:2019年12月16日 更新日:

  • 京極夏彦好きのためだけの小節
  • それなりに面白いがオチはない
  • 壮大なサーガの一部
  • おススメ度:★★☆☆☆

前回、同作者の「ヒトでなし: 金剛界の章 (京極夏彦/新潮文庫)」を読んだ後、何となく、まだ読み足りなくて検索したら出てきたのがこの本。この本は表題通り「鬼童」「青鷺火」「墓の火」「青女房」の4つの短編で構成されているが、なんと「鬼童」は「ヒトでなし」の話なのである。そのあまりにスムーズな移行ぶりに、正直びっくりしたが、こちらの方が先なので、これに着想を得て膨らませたのが「ヒトでなし: 金剛界の章」だろう。

どちらにしても、これは百鬼夜行シリーズと呼ばれる「姑獲鳥の夏」~「陰摩羅鬼の傷」までの長編怪奇小説に付随する、外伝シリーズの一種である。しかも、このシリーズは本編のメインキャラクターがほとんど登場せず、いち脇役のその後(その前)のエピソードが語られるという、どうしようもなくマニアックなシリーズなのである。

そういう理由なので、この本だけを手に取っても、いったい何のことやらわからないと思う。シリーズ既読者も続編が出なくなって久しいので、どこの誰だか分からない状態で読む、という状況がほとんどだろう。つまり、本編の外伝でありながら、ほとんど、独立した短編怪奇小説として読まれるという、奇妙な位置づけである。

母親が死んでも心が動かない「ヒトでなし」の心理状態を描く「鬼童」、人は死んだら鳥になるのかという哲学的・神学的会話が中心の「青鷺火」、父親の怪死の謎を追う中年の男のオチのない物語「墓の火」、復員する箱づくり職人の心理状態の揺れを描く「青女房」の4つから構成されている。

だいたいのシリーズを把握している私も、それぞれがどれに対応するのかは分からなかった。そもそも、脇役のストーリーがいきなり語り始められても困る。困るというより興味の持ちようがない。しかし、そこは筆力が売りの京極夏彦。何となく楽しく読めてしまうのが、悔しい。

ほとんどは一人称で、死や忘却、悲しみや苦しみ、宗教や哲学について滔々と語られることになる。これを面白いと思えるかどうか。少なくとも、「姑獲鳥の夏」「魍魎の函」「狂骨の夢」あたりを読んでから出ないと面白くないだろう。できれば、既刊の長編は全て読んでいてほしい(しかも忘れていないのがベスト)。私も少しは読み直した。

等という非常にニッチな層に向けて書かれた作品なので、正直、面白いも下らないもない。

例えば、自分の好きな小説(あるいはアニメ、ゲーム)があるとするでしょう。その作品の、外伝が発売されたとする。それは非常にマイナーである。しかし、作品そのものの出来は別に悪くない。この場合、この本を読むのは本編の熱烈なファンである。それ以外のファンが読んでも、まず、設定が理解できない。本編が好き>続編に興味がある>何でも知りたい>時間的余裕がある、などの条件が必要だ。

などなど、激しいハードルをクリアできる方なら、そこそこ面白い小説である。いつもの京極夏彦ワールドに「浸っていたい」という人にはぴったりだ。京極夏彦は、エロ・グロ・耽美・ペダンチックな趣味があるので、そういうのが好きな人にはおススメ。

とくに「鬼童」の乾いた「人でなし」ぶり、「青女房」の色々と想像させてくれる破綻ぶりなど、いずれ劣らぬダメ人間の独白は、一種の快感でもある。こういう本が出版され続けていることは素晴らしいと思う。

とはいえ、結論的には、一般的にはまったくお勧めできないということだ。
うーむ、年の瀬も迫ってまたマニアックな紹介になってしまった。

(きうら)


-★★☆☆☆
-, , , ,

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

ダーリン・イン・ザ・フランキス(ネタバレあり)

青年向けロボットアニメの王道を狙ってます的な あまりにも既定路線に寄りすぎ エロスもグロも純愛も友情も中途半端 おススメ度:★★☆☆☆ 3年以上前のアニメを観て感想を書くのもどうかと思うが、微妙に見た …

世界の中心で、愛をさけぶ(片山恭一/小学館文庫) ~ベストセラーを読む

シンプルなラブストーリー 恐ろしく早く読める なぜ売れたのか、一応分析してみる おススメ度:★★☆☆☆ 久しぶりの「ベストセラーを読む」はずいぶん古い。2001年に発刊され、2003年に一気に売れたと …

ブラッドハーレーの馬車(沙村広明/太田出版)

少女趣味と人体欠損要素あり 全体的に鬱展開で救いがない 絵は作者特有の緻密な画風 おススメ度:★★☆☆☆【閲覧注意】 とある資産家のブラッドハレー家では「慈善事業」と称して、孤児院から少女を選び、養女 …

実録怪異録 死に姓の陸 (西浦和也/竹書房ホラー文庫)

実話短編怪談集。メインタイトルは連作 堂に入った語り口で安定して読める 実話だと思うが、霊現象そのものには「?」 おススメ度:★★☆☆☆ こういうサイトを運営していると時々読みたくなる実話怪談シリーズ …

バトルロワイヤル(高見広春/幻冬舎)

当時斬新だった「中学生同士の殺し合い」がテーマ キャラが類型的で単調な展開 ごく普通の娯楽小説 おススメ度:★★☆☆☆ 出版当時は国会で話題に上がったという問題作……のはずだが、中身はごくごく普通の娯 …

アーカイブ