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神のみぞ知るセカイ(若木民喜/少年サンデーコミックス) ~お正月限定企画「怖くない」本(成城比丘太郎)

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  • ギャルゲーを何よりも愛する主人公。
  • ふたつの三角関係を含む、多角関係のラブコメ。
  • 序盤は恋愛シミュレーションゲーム風、後半から世界の命運を決する戦いへ。
  • おススメ度:とくになし。

2018年最初の記事は、何を書いてもいい(注:正月なので無礼講/きうら)というので、私が2010年代一番好きかもしれないラブコメ漫画(アニメ)について書いてみたい。と言っても、私はとくにラブコメに通じたラブコメマスターというわけではなく、近頃の漫画すらよく知らない。ただ〔ハーレム〕ラブコメ要素がある漫画(アニメ)が好きというだけの者ですが。昔から、うる星やつらやめぞん一刻やきまぐれオレンジ☆ロードなどが好きで、星里もちるや桑田乃梨子漫画のノリが好きで、最近も俺ガイルなどはおもろかった(人気があるというニセコイはピンとこなかった)。私が近年見たなかでは、本作品が一番良かった(一番視聴した)。なんせ、今は無きマングローブが遺したこのアニメに関しては、久しぶりにBD-BOXを買ったくらいだから(金があったら全エピソードアニメ化させたい)。というわけで今回の記事は、アニメ版『神のみぞ知るセカイ』を中心にした、完全に独りよがりの感想になるかと思われると言っておきます。

本作の主人公は、ゲームとくにほぼギャルゲーのみを愛し、リアル–現実はクソゲー、リアル女はノーサンキューと嘯く、高校生の桂木桂馬。彼のもとに、ある日地獄からあくまで悪魔のエルシィがやって来るというどこかで見た導入内容。エルシィは、地獄から逃げだした悪人の魂(=「駆け魂」、実は悪魔の魂)を集めるため、協力者(バディ)として、桂馬を騙し討ち的に契約させる。命を質にとられた桂馬は、その駆け魂狩りに付き合うはめに。女性の心の隙間に入り込んだ駆け魂を彼女らの心から解放し、それを回収するために、桂馬のゲームで培った女性攻略テクニックを用いることになるのだが、普通はそんなもん通用するはずもないが、なんせ桂馬は一応見てくれだけはいい〔ように描かれている〕。どのハーレムラブコメでもそうだが、だいたい見た目はそれなりにいい主人公(男女問わず)が多い。見た目も中身もぶさいくなのはなかなかない(たぶん)。

この漫画(アニメ)の序盤は、桂馬が同じ学校の女子や教育実習生やらを次々に攻略していき、第一義的にはそのありさまを楽しむのが、この神のみの見所。しかし、見ていくとだんだん桂馬のやっていることは、読者(視聴者)にはゲームのキャラ攻略と変わらないものに見えてくる。三次元(リアル)に住まう〔と思っている〕二次元キャラを愛する桂馬が攻略している、彼が唾棄するリアル女性は、視聴者からすると実は二次元キャラにしか思えなくなってくる(当たり前だが)。つまり彼がやっていることはギャルゲーそのものであり、しかもハイライト的にまとめられて簡略化され、かなりマニュアル化されたキャラ攻略であって、図らずも桂馬は身を持って二次元キャラ攻略を、〔読者・視聴者という目を通しての〕三次元キャラになりきって行っているわけで、そこがフツーのラブコメやハーレムアニメとの違いで面白い。

こうして見ていくと、本作品の序盤は、ギャルゲーをほぼプレイしたことのない私に、擬似的なギャルゲープレイ気分を味あわせてくれる。単にキャラ攻略(恋愛)するだけでなく、駆け魂をその身に宿した女性たちの悩みやコンプレックスそのものを解消し、人間的に成長させる。しかも攻略されるのは女の子たちだけではなく、桂馬本人でもある。攻略中の桂馬はテレたりデレたりするような表情を見せて、攻略主体の彼が同時に作品内リアル女子に攻略されているようにも見える。とくにある一人のイレギュラーな行動に振り回され、リアルへの見方を変えていくことになる(この女性こそ、唯一作品内でリアル世界を生きているように思える)。そのことは、原作ラストのシーンで結実するが、それまではあくまでリアル女性は恋愛対象にないという桂馬の筋の通った倫理はなかなかすごい。ふつうならだれか一人にでもよろめくことはありそうなものだが、よほどリアル女子に絶望しているのか。その絶望の深さはどれくらいだろうか。まあ、リアルとゲーム女子との差に何かしら埋められないものを感じているようなだけなので、たいしたことはないか。単なる二次元コンプレックスとは違うだろうが、年を経るにつれて解消するような絶望のレベルではあるような気がする。

さて、その桂馬のすごさは回を追うごとに発揮される。それは、本作が女神篇へと突入し、それまでのギャルゲーアニメ気分を脱ぎ捨てて、セカイ系を思わせるような世界(人間界)の危機と桂馬の攻略が繋がりだしたところにある。女神篇からは人間界の命運を背負って攻略女性を再攻略するのだが、そこでも桂馬は己のポリシーを貫き、決して妥協することがない。例えば大詰めで、ヒロインの一人である歩美にするプロポーズにしても、自らの美学をまげることはない。たとえ世界が悪意あるものに蹂躙されようとも。しかし、その彼のやり方がまあまあ反発を食うのは当たり前。原作ラストの〔本物の〕告白に関しても、ゲームのようにリセットして新たな告白をしたようにしか見えない。そういった傍若無人に映るところも桂馬の魅力ではあるが。なんせ、授業中だろうが、入浴中だろうが、ゲーム機を手放すことはないのだから。そこが「落とし神」と呼ばれる所以。神は決して下々に妥協しない。

本作の世界は、ゲームとは違って、一応三次元内の出来事つまり現実の摂理に従わなければならない。そうすると、何人もの女性にゲームのような都合のよい攻略はできない。そのために設定的に要請されたのが悪魔のエルシィで、悪魔と言っても見た目はかわいいエルシィのもつ力によって、物理現象を超越したかのような超常的行動が保証されることになる。そのためにいろいろと疑問が出てくる。まずは、攻略女性の攻略時の記憶をなくすというところ。攻略中の記憶をなくすという設定はいいのだが、同時にそれに関わった周りの人間の記憶も改竄しなければならない。なぜなら、例えば歩美の攻略などでは周りの部員たちが見かけていたわけだし、彼女らから歩美へ、桂馬との成り行きを告げられてしまうかもしれないからだ。隅々まで原作を見たわけではないので失念しただけかもしれないが。たぶん、ヒロインの一人である栞の攻略後に、図書委員長が桂馬のことに気付いていなかったところを見るに、そのあたりは都合よくクリアされているのだろう。とはいえ疑問が残る。女神篇では、一部攻略女子の記憶が残っていたということはまあいい。ヒロインのちひろに、桂馬に攻略されていた時〔だけ〕の記憶だけがないということから考えると、ヒロイン以外のモブキャラなどにも、桂馬が〔女子〕攻略している時の記憶が選択的に消されている蓋然性は高い(もし全網羅的に記憶を消すとなると、桂馬の攻略キャラの総数を考えればとんでもないことになる)。そうなると、いったいどういった感じでその記憶をスポット的に選び出し、またそれを消したり書き換えたりしているのか(書き換えないと、記憶の欠落が間歇的に生じて、とんでもないことになるかもしれない)。さらにその範囲をどの程度まで広げるかが問題だ。学校の人間はもとより、それ以外の場所でも人目はあるのだから。こう考えると、悪魔のもつ力というのはとんでもなく恐ろしいということだ。というよりも、漫画ラストからすると、エルシィの本性のせいかもしれない。多分その可能性は高いだろう。

そして次のことは問題というよりも、エルシィ以下悪魔と、地獄という存在を持ちだしたことによると思われる、スケール肥大の不可避化という現象。どこまで悪魔という設定で話を広げようとしたのか分からないが、アニメのかのんちゃん攻略時の季節〔の統一感のなさ〕を見るに、それほど緻密になされていたとは思えない。それはしかし悪くない。というか、その地獄設定があったればこそ、神のみは傑作となったわけだ。アニメは女神篇で終わりだが、その続きの漫画では、過去編を含めての解決編になっていて、伏線の回収などにちょっと力技的な感はあるのだが、ずっと疑問に思っていた天理の桂馬への想い〔の持続力や強さ〕も理解できたし、このエピソード(過去編)を読み終わって改めて最初の方を見ると感慨深くてやっぱいい。最後までアニメ化してほしいが無理だろうなぁ。

この漫画はたくさんの魅力的なキャラクターが登場するが、アニメ化に際して明らかな贔屓キャラがいるようだ。その一人がアイドル高校生中川かのんちゃん。コミックスでは2巻の前半ちょっとだけの分量だが、アニメでは3話分かけられ、さらに数々のキャラソンにめぐまれるという、スタッフから至れり尽くせりの対応だ。さらに、汐宮栞も3話分にわたって攻略され、本好き〔でコミュ障〕の設定を遺憾なく発揮している。図書委員の彼女がいる受付カウンターはもはや古本屋。周りには積まれた書物。その署名は『近鉄選手年鑑1983』(しぶい)、『今日からのランバダ』(ありそうな本だが、ネタが古い)、『はじめてのコボル語会話』(一体どんな会話?)などなど、他にもあるが実在しなさそうな本ばかり(女神篇では、『土佐日記』など実在の書名が出てくるが)。それはそうと、本作舞台である舞島学園の図書館はすごい。うらやましい。こんな立派な図書館があるということは、ここの生徒達は基本金持ちの坊ちゃん嬢ちゃん(死語)なんだろうな。だから、不良はいるにせよ、品行方正そうな生徒ばかりなのだろう。

アニメ二期でも二人のキャラ(ちひろと純)にそれぞれ3話分さかれている。そのせいかどうかわからないが、五位堂結や九条月夜といった重要キャラは攻略が省かれてしまった。女神篇をアニメ化する〔かもしれないという〕ことをどの程度考えていたのだろうか。一期のアニメーションの出来と、女神篇のそれとを比べると、個人的には一期の方が多少クオリティは高いと思う。ここで愚考するに、もしかしたら女神篇は漫画を愛するファンへの、製作サイドからの感謝の贈り物なのかもしれない。だとしたら、一部攻略キャラがアニメ化されていなくてもしかたないか。それに、限られた枠内で女神篇〔を含む周辺エピソード〕全体をフォローするのは厳しいからなぁ。メインヒロイン以外にもいろいろ魅力的なキャラはいるが(ハクアのバディとかも含む)、彼女らには、不遇にも女神がいないばかりに(本筋への重要度がないばかりに)、アニメ女神篇では顔出しだけにすんでしまった。とはいえ、一番不遇なのは、おそらくハクアだろう(いや、おそらく一番報われないのは天理だろうなぁ)。ハクアは駆け魂隊のエリートとして、地区長という地位で颯爽と登場するも、実は実践に弱かったし、彼女のバディは他と比べると仕事が遅いし(でも有能そうではある)、女神篇では桂馬を必死にサポートするも、結局原作ラストでは桂馬とエルシィ、両者とキズナが切れてしまって、哀しい役回りになってしまうという、なんとも愛すべきキャラ。しかし、そのハクアには他に劣らないところがある。それはキャラソンの出来だ。私は週に一度は必ずハクアの歌を聴いているが、まあこれは声優の力が大きいのか。声優と言うと、それぞれの代表作は何かと聞かれたら、この神のみキャラが出てくる確率は高そう。

さて、なぜこのキャラたちが気に入っているのかというと、その名前が近鉄(近畿日本鉄道)の駅名にちなんだものだからだ。近鉄のヘビーユーザーだった私からしたら、もうよだれものだと言っていい。登場順(攻略順)に紹介すると、高原歩美(高の原、なつかしい)、青山美生(青山町)、中川かのん(伊勢中川)、汐宮栞(汐ノ宮)、小阪ちひろ(河内小阪)、長瀬純(長瀬)、九条月夜(奈良の九条)、生駒みなみ(生駒)、鮎川天理(天理)、日永梨枝子(日永)、上本スミレ(上本町、これまたなつかしい)、五位堂結(五位堂)、榛原七香(榛原)、最後におまけとして二階堂先生(二階堂)などなど、ほかにも関西方面の地名/駅名由来の名前ばかり。近鉄の駅名でいうと、桜井、八木、吉野、高田など使えそうな名前もあるがたぶん使われてないと思う(詳しく読みなおしてないのでわからないが)。

こういった、学生時代の懐かしさを感じるような甘酸っぱいストーリーとキャラの魅力が合わさり、さらにちょっとした中二病(?)気分も味わえるという、私にとって2010年代でも上位に位置づけられるアニメになっている。他にも、要所で古い創作物(映画や漫画やアニメやゲーム)由来のギャグが織り交ぜられて、そこも楽しめるところになっている。さらに、音楽もそのキャラたちの心情を代弁したかのような静かさと盛り上がりを表現していて素晴らしいし、挿入歌や特殊EDも含めたEDも絶品だし、ほんま、私が原作者ならうれしすぎて涙が止まらずに脱水症状に陥るレベル、というのは言い過ぎだが、まあありていにいうと欠点も含めてこの作品を、たまに空から降る雪くらい愛している。

さて、とくにお薦めするというより、今回の記事は私のお気に入りをだらだらと書いただけでした。お粗末でした。

(成城比丘太郎)




神のみぞ知るセカイ(1)【電子書籍】[ 若木民喜 ]

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