★★☆☆☆

私が彼を殺した (東野 圭吾/講談社文庫)~あらましと感想、軽いネタバレ

投稿日:2017年9月12日 更新日:

  • 毒殺した犯人を探るミステリ
  • 類型的設定と「推理」中心の内容
  • ミステリという組立ブロックを組み合わせたよう
  • おススメ度:★★☆☆☆

(あらまし)あまり特定の主人公を主役にしない東野圭吾にあって珍しいシリーズもの「加賀恭一郎シリーズ」の第5弾。かつては売れっ子だった小説・脚本家である男・穂高とその事務所のマネージャー・駿河と、穂高との結婚を控えた花嫁・神林美和子とその兄・貴之、売れっ子詩人である美和子の担当編集者・雪笹。結婚式の前後を挟んで、上記のメンバーに穂高のかつての恋人を加えてストーリーは進行する。基本的には、タイトルの「私」が誰であるかを、読者に推理させるような構成の完全なミステリ小説。特徴的なのは一人称形式をリレーすることで、例えば「神林貴弘の章」「駿河直之の章」などという感じで、それぞれの人物の主観で進行する。

少し、内容と関係のない前置きを。普段、純粋なミステリを読まない私が、なぜ、シリーズものの第5弾をいきなり読んだかというと、人づてに頂いたからである。譲ってくれた方は「ダブったから」らしいが、その辺の事情は良く知らない。また、私も東野圭吾も、このシリーズもよく知らなかったが「人に薦められたら、とりあえず何でも読む」をモットーにしている私は、読んでみることにした。つまり、全く予備知識がなかった。

途中まで読んで感じたのは、本当に推理要素だけで構成された作品だということだ。つまり「犯人は誰か」「ストーリーから犯人をどうやって推理するか」に重きが置かれていて、それ以外はほとんど記号のようなものである。別の言い方をすると、ミステリを構築するたくさんの細かなブロックを組み合わせて、一つの「作品」として仕上げているという印象だ。その為、登場人物のバックボーンや心情は必要最低限しか提供されていない。しかも、作者のファンの方には失礼だが、初版の時期を考慮しても、実にステレオタイプで前時代的な設定である。

前から書いているが、小説家が小説家を主人公にするのは、私からすれば手抜きにしか見えないし、登場人物もほとんどその周辺の限られた人物だけ。シリーズとなっているにも関わらず、刑事である「加賀恭一郎」のキャラクター性は驚くほど薄く、別に彼である必要性を感じなかった。美和子と兄の関係についても、物語上必要だからなされた設定に思え、リアリティを感じない。正直に言うと、逆にそれらのせいでシリーズものであるにも関わらず、ほとんど抵抗なく読めた。俗な言い方をするとテレビドラマの脚本を読んでいるようで、事実、シリーズ内の別の作品はドラマや映画になっているようだ。

私が驚いたのは、奥付だった。2002初版で、2010年5月時点で何と39刷となっている。と、いうことは売上的には相当な人気作品だということだ。うーむ。それを知って、簡単に「おススメできない」で終わらせてはいけないような気がしてきた。私自身は、この作品自体は佳作とはとは思わないが、それでもこれだけ多くの人が読んでいるということは、

1.ここに至る過去のシリーズ4冊が猛烈に面白かった
2.このパズル的推理というジャンルを好きな人が多い
3.つまり人間ドラマではなく、思考パズルとして楽しまれている
4.その為には、変に凝ったドラマや分かりにくい設定はいらない
5.これぐらいの読者との距離感の方が、多くの人に好まれる
6.東野圭吾は一つのブランドである

などの可能性を埒もなく考えてみた。この中で、私が一番可能性が高いと考えているのは「3.つまり人間ドラマではなく、思考パズルとして楽しまれている」で、そう考えるとキャラクター性や人間ドラマが希薄なのも頷ける。元来、ホラーやサスペンスを愛する私のような人間とは、楽しむべき方向違うのである。これでは、歴史小説を読んで「どんでん返しがない」などという感想を書いているのではないかという気がしてきた……。

結論として、推理小説の門外漢の私からすれば、若干の「怖さ」はあるが機械的なものであるし、ラストの手法も余り納得できないので、★2という評価とした。可能であれば、ミステリ通の方の評価もぜひ聞いてみたい。ちなみに文章は平易で非常に読みやすかった。

(きうら)



(楽天ブックス)

-★★☆☆☆
-, ,

執筆者:

関連記事

X‐ファイル―未来と闘え(クリス・カーター(著)、 エリザベス・ハンド(著)、 南山宏(翻訳)/角川文庫)

伝説の超常現象捜査官の映画版ノベライズ モルダーとスカリーが出てくるだけで満足 当時としては異常によくできたドラマだった おススメ度:★★☆☆☆ これもまた古い話になるが、テレビドラマである第1シーズ …

日本〔論〕についての会話

死者と先祖の話 (山折哲雄/角川選書) 日本論(石川九楊/講談社選書メチエ) 日本と日本文化を規定するものとは 宗教観と日本語から見る日本論 どちらも中途半端なかんじです おススメ度:★★☆☆☆ 【登 …

死国 (坂東真砂子/角川文庫)

オカルト要素ありの愛憎劇 四国の文化についてはあまり深く突っ込んでいない 女性視点の性的なモノローグなどの描写あり おススメ度:★★☆☆☆ 【ネタバレあり注意】 四国にある八十八ケ所の霊場を死んだ者の …

ここから先はどうするの: 禁断のエロス (新潮文庫)

5人の作家によるエロスがテーマのアンソロジー 性的に興奮するというより後味の悪い話が多い イマイチこの本を読むシチュエーションが分からない おススメ度:★★☆☆☆ 新年早々「禁断のエロス」はないと思う …

空飛ぶタイヤ(上)(池井戸潤/講談社文庫)

きわめて真っ当な企業小説 本当に予想通りの展開 随所にいい台詞もあるが・・・・・・ オススメ度:★★☆☆☆(上巻のみの評価) 発刊当初からそのインパクトのあるタイトルからすごく気になっていた一冊。この …

アーカイブ