★★☆☆☆

空飛ぶタイヤ(上)(池井戸潤/講談社文庫)

投稿日:2018年6月21日 更新日:

  • きわめて真っ当な企業小説
  • 本当に予想通りの展開
  • 随所にいい台詞もあるが・・・・・・
  • オススメ度:★★☆☆☆(上巻のみの評価)

発刊当初からそのインパクトのあるタイトルからすごく気になっていた一冊。このたび、映画(公式サイト)が公開されるということなので、それを機会に上巻を読んでみた。うーん、何というか、極めて堅実な作りの作品と言おうか、意外性が全くないと言ったらいいのか、醤油ラーメンを食べに行ったら本当に普通の味の醤油ラーメンだけが出てきたような感じだ。

あえて、本の紹介を転載してみるとあらすじはこんな感じ。

走行中のトレーラーのタイヤが外れて歩行者の母子を直撃した。ホープ自動車が出した「運送会社の整備不良」の結論に納得できない運送会社社長の赤松徳郎。真相を追及する赤松の前を塞ぐ大企業の論理。家族も周囲から孤立し、会社の経営も危機的状況下、絶望しかけた赤松に記者・榎本が驚愕の事実をもたらす。

同じような感想を二度書いてしまうが、とにかく、内容が真面目だ。テーマも真面目、登場人物も真面目、展開されるドラマもかっちりと予想通り、登場キャラクターも一通りそろっている、何から何まで「ああ、全くその通り」と思える内容なのである。だから、私にとっては意外性はかけらもなく、むしろ初めて読むにもかかわらず、自分の予想通した展開を確認するような、そんな読書になった。

これは悪口に聞こえるが、逆に取れば非常に読みやすく、かつ分かりやすいということでもある。善人はちゃんと善人であるし、悪人はちゃんと悪人、ジョーカーとなる人物もちゃんといて、とにかく安心して読める。こういった企業の実態を描いた小説に対して苦手意識があっても大丈夫だろう。

あえて挙げれば、主人公の赤松社長がいい。仕事柄中小企業の社長を多く知っているが、人物造形は正確だと思う。資金繰りに奔走し、大企業の横暴に感情をあらぶらせる様は人間的で面白い。しかし、半分ほどはホープ自動車という自動車メーカーの内部抗争になっているので登場機会が意外に少ない(上巻では)のが、残念だ。

誰が読んでも三菱自動車をモデルにしているとは思うのだが、かつてそのフォルムから愛車にしていた<アイ>に乗っていた人間からすると、こういう会社だったと思うと残念でならない。まあ、多かれ少なかれ自動車メーカーにはリコール問題はあるものだが、きちんと対応できている企業は少ないと思う。

怖い本的には、亡くなる方はいるが、全く怖くないので、あまり期待はなさらないよう。ただ、自動車会社に限らず、そういった長年企業が非を認めず、後から重大な欠陥が報告されることは結構ある。アスベスト被害などもそうだ。そういう意味で、いま、喜んで使っているものが本当に大丈夫なのかどうかが分からないということ、それは本当に怖いなとは思う。

そうそう、ドラマに幅を持たせるためにいわゆるモンスターペアレントも出てくるのだが、このシーンはいるのかどうか、ちょっと疑問に感じた。ここを削って、もっと短くまとめてもいいのでは。

と、いうわけで、下巻を読むかどうかは思案中。絶対、予想通りだろうなぁ。

(きうら)

※映画は2018年6月15日から公開中。作品の出来は分からないが、登場人物はおおむねイメージ通り。

(きうら)


-★★☆☆☆
-, ,

執筆者:

関連記事

実録怪異録 死に姓の陸 (西浦和也/竹書房ホラー文庫)

実話短編怪談集。メインタイトルは連作 堂に入った語り口で安定して読める 実話だと思うが、霊現象そのものには「?」 おススメ度:★★☆☆☆ こういうサイトを運営していると時々読みたくなる実話怪談シリーズ …

日出る国の工場(村上春樹・著/安西水丸・画/新潮文庫)

工場見学の文章とイラスト どこを切っても村上春樹 30年前のドキュメントで時代を感じる おススメ度:★★☆☆☆ 初版発行が1987年平凡社となっている。およそ30年前である(2018年現在)。そもそも …

魔の聖域 (楢山芙二夫/角川ホラー文庫)~あらましと感想 、ややネタバレ

映画のスタントマンの事故死にまつわる怪異 イマイチ、何のホラーなのか分からない 昭和映画界の裏側描写は面白い おススメ度:★★☆☆☆ 「魔の聖域」と、抽象的なタイトルがついているが、内容は上記のような …

ハサミ男(殊能将之/講談社文庫)

ミステリ寄りのトリッキーなサスペンス 残酷描写が苦手な方も大丈夫 面白いが癖が強く、万人には薦められない おススメ度:★★☆☆☆ 少女の首にハサミを突き立てるという「ハサミ男」による残虐な連続殺人が起 …

牛家 (岩城裕明/角川ホラー文庫)

ゴミ屋敷の清掃員が体験する恐怖 リアルな出だし、シュールな結末 ゾンビ物「瓶人」収録。長さは同量。 オススメ度:★★☆☆☆ このところ、別の世界を覗きたいという欲求から、自分が詳しく知らない職業を扱っ …

アーカイブ