- 18の短編からなる幻想小説集。
- 特に怖いところなし。
- 幻想小説初心者向け。
- おススメ度:★★☆☆☆
まず表題作の「結ぶ」だが、これはなんか思考実験のような短編。身体が縫われることから着想し、球体へと至るまでにどのようなイメージが湧いてくるか、その過程を小説にしたような、なんか(素人にもできる)マジックの裏側を見せられたようなかんじがした(悪い意味ではない)。球体に縫われていくところと、身体を刃物で薄く切り開き無限に身体が拡がっていく想像との対比は、少し面白かった。できればもうちょっと分量があればよかったが。
「湖底」は、ある画集に魅せられた「わたし」が、それに触発されて過去の光景を幻視する。見たことのないはずのfaxの文面が混信して、現実へ侵食した幻像に沈み込む。過去の「わたし」と今の「わたし」との混在。ホテルで出会えなかった男性との再会と自らの過去像は、湖の底に映った鏡像のごとく揺らめいて見えて、かなしい。どこか切ない一品。
その他は特にこれといって書くこともない短編が続くだけ。その中で、「空の果て」と「心臓売り」はまあまあ良かった。全体に怖いところはあまりなく、ホラーとしてはおススメするほどのものはなかった。個人的に胸に残るものもこれといってなかったが、ただ、読んでいる時、たまに小中学生時におぼえた感情(←名前が付けられない)がよみがえってきたのが、唯一良かった点。
本書は、今まで幻想小説の類を読んだことがない人や、小学生高学年になって児童書などに飽きた人向けの読み物としては、いいのではないかと思う。
(成城比丘太郎)
(編者注)二日続けて、本をススメない書評サイトというのは、アフェリエイトサイトとしての自覚を失っている気がする。まあいいか。面白くないものは面白くない。上の書評にある「たまに小中学生時におぼえた感情」を私なりに表現すると、「大人の感覚が理解できた気がする優越感」ではないだろうか。次は面白い本を紹介しようぞ!(きうら)