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絡新婦の理 (京極夏彦/講談社文庫) ~あらすじと感想、軽いネタバレ(前編)

投稿日:2017年9月4日 更新日:

  • 目潰し魔と絞殺魔の事件を軸に進むシリーズ第5弾
  • 展開が面白く、シリーズ中でも屈指の作品
  • これまでの京極堂の敵としては一番の難敵
  • おススメ度:★★★★☆

著者の作品は結構な数を紹介しているので、恐らく私自身相当好きなのだと思う。その魅力は、私自身、興味がありながら絶対に知りえないような膨大な知識が投入されて小説が書かれていることにある。他の作家でも、資料や取材、経験を駆使し緻密な作品世界を作り上げることはあるが、京極夏彦の場合は、そういう作品のために調べた感じがなく、予め知っていたことを「たまたま」題材に取り上げているような節がある。それが広範かつ精緻なので、思わず引き込まれてしまう。

今回は基督教と聖母、悪魔といった内容と、男性原理主義、日本の夜這いなどの因習、女系社会などがベースになっている。ちなみにこの作品は、百鬼夜行シリーズという連作長編の第5作目に当たるので、(そんな人はいないと思うが)刊行順に沿って読まれることを強く推奨する。なぜなら、これまでの事件の関係者や登場人物が深く関わっており、そういった過去の事件については改めて説明することを省かれているので、いきなりこの話だけを読んでも半分も楽しめないと思う。念のため、刊行順に紹介のリンクを張っておきたい。「姑獲鳥の夏」「魍魎の函」「狂骨の夢」「鉄鼠の檻」で、本作、「絡新婦(じょろうぐも)の理(ことわり)」に接続する。

(あらすじ)19歳の少女から、フェミニストの女性教師、娼婦から商家の妻まで、目を錐のようなもので貫かれて殺害されるという連続殺人事件が起こる。捜査に当たるのはシリーズでもおなじみの木場修だ。彼は現場となった連れ込み宿の検分から、様々な細かな矛盾を感じると共に、この事件に自分の知人が関わっていることを確信する。同時期、聖ベルナール女学院という全寮制の女学校で、売春グループが活動しているという噂が発生する。そして蜘蛛の僕という組織があり、人を呪い殺すという。教師に強姦された女生徒はその組織に接触し、強姦相手の教師を殺して欲しいと依頼する。さらにその女学院がある地域では、地域の金満家・織作家の当主が死亡していた。織作家には、未亡人となった真佐子、既に亡くなった長女・紫、次女の茜、三女の葵、四女の碧と、茜の婿・是亮がいるが、是亮が無能なため、織作家の次期当主を巡って悶着が起きる。そこで、さらに絞殺魔の惨劇が忍び寄っていた……。

長いが、これでもストーリー全体からすれば全てプロローグなのである。さらに前作で登場した古物商の今川や前々作で登場した釣り堀屋の主人である伊佐間等も関連し、全体の3分の1程度に当たる250Pを過ぎても、帰着点が見えないという長編だ。これは腰を据えて読むしかない。

今回の特徴は、冒頭から「真犯人」が登場して、あまつさえ探偵役である京極夏彦と事件の真相について会話している点にある。もちろん、その時点では誰だか分からないようになっているが、よくよく読んでいけば、理由は分からないが、途中である程度検討がつくという状態になる。そういう意味では、単純に真犯人を探すミステリになっていないのが面白い、というかこのシリーズの特徴だと思う。今回は特にその傾向が顕著で、タイトルに「理」という単語がついている通り、一見関係のない事件がどのように収束していくかを楽しむ小説だと思う。そういう意味では、論理パズル的な側面があり、その仕掛けが明かされる中盤以降は非常に興味深い。

話の肝は、今回登場するキャラクターがどのように偶発的に動いても結果が同じ、という点である。種明かしをされても、細部までは理解できないようなところがすごいところだと思う。著者の頭の中には、キャラクターごとの精緻な行動記録が明確に記されていて、それを物語に置換しているように感じる。

とにかく、複雑な展開を丁寧に追っていく(それこそ蜘蛛の糸を手繰るような)物語で、話の進行は遅いが、シリーズ屈指の傑作だと思うので、少々読むのが苦痛だった前作で「懲りた」人でも、興味が有れば、ぜひ読んで頂きたい一作。その辺の魅力を後編でもう少し書いてみたい。

(きうら)



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