- わかりやすい解説
- この病気の特徴について
- 世間はもっとこの病気について知るべき
- おススメ度:★★★★☆
著者は精神科医。おそらく臨床経験も豊富で、なおかつこの統合失調症について長年考えてこられたのではないかと思います。本書では、病名はよく知られているのに、なぜだかその実態はよく知られていない統合失調症について、その歴史から治療方法からリスクや、そして原因(のわからなさ)について分かりやすく書いています。
統合失調症という病名は、20年くらい前までは、精神分裂病と呼ばれていました。とはいえ、病名が変わってもこの病気についてよく知られるようになったとはいえないようです。うつ病や発達障害などといったものは広く知られるようになり、また周囲の人間がそう診断された人もいる、という人も多いでしょう。しかし統合失調症は名前が変更されても全く理解されていない。
ではなぜ、統合失調症のことが広く知られないのか(かくいう私もこの病名を診断された人に会ったことはありません)。そのわけは本書を読むとなんとなく分かります。20歳くらいの若者の「100人に1人」がかかるとされるようです。症状としては「幻覚」や「妄想」といったものが主なものです。幻覚や妄想といっても健常者が普段抱くような妄想ではなく、本当にそういう幻覚(幻聴)や妄想に襲われるようなのです。軽い症状ならともかく、重症化すれば、日常生活を送ることは難しくなり、時には入院治療が必要になります。本書を読んで思ったのは、私がこの患者に会ったことがないのは、おそらくこのことに無知だったから気付かなかっただけからかもしれません。
著者が言うには、統合失調症とは「普通の病気」であるということです。今では、「うつ病は心の風邪」などと言われその認知度も上がっていますが、統合失調症に関してはまだそうではない。著者は、この病気を「心」ではなくて、「脳」の状態の問題だとしています。それでもなぜこの症状があらわれるのかという原因は「不明」としているので、本書を読む限りではかなり特定するのが難しそうな病気のようです。そもそも、発症にいたる要因についても複雑なようです。
幻覚(幻聴)や妄想を訴える人には、もしかしたら脳炎など別の疾患からくるものもあるし、違法薬物などの摂取も疑わなければならないようです。まず医師としては、他の疾患を疑い、そうでなければ統合失調症を疑うのでしょうが、そこにはこれまた別の難しさがあるようです。それは、患者本人に病識がないこと。それから周囲の偏見や差別を気にして、それを認めたくないという反応があること。とくに「病識の欠如」は治療の過程を難しくするようです。
さらにやっかいなのが、寛解しても再燃(再発)することがあることです。一番難しい状況だなと思うのは、この病名への偏見により、就労が困難になることがあることでしょう。そのせいで生活が苦しいものになり、この罹患者の平均寿命が短くなっているのではないかとのことです。また「てんかんなど」とともに統合失調症患者にも、「自動車運転死傷行為処罰法」(2014施行)により重い刑罰が科される可能性があるようになったのも個人的には差別的な扱いです。こういった、世間では目立たないマイノリティには、世間は冷たい。
10代のこどもたちがかかる可能性が低くはない病気ですので、もっと広く知られたほうがよいと思われます。うつ病や発達障害だけでなく、統合失調症も一般に知られることが望ましいと思われます。とくに子供たちと頻繁に接する立場にある人は、こういうことがあるということを認識しておいたほうが良いかと思われます。
(成城比丘太郎)