★★★☆☆

苦役列車(西村賢太/新潮文庫)

投稿日:2018年6月17日 更新日:

  • 赤裸々で陰鬱な青春物語
  • タイトルほど仕事が苦役でない
  • 寧ろ「生まれ」についての苦悩

私はかねてより、労働の本質を描くと絶対ホラーになるのではないかという意見を持っており、それがこの本を選んだ理由だ。奇しくも先日紹介した「うなぎ鬼」も、借金と労働という、ある意味「生きることそのもの」にまつわる恐怖だったが、本書はそういう側面もあるが、どちらかというと真っ当な青春小説だと思う。

(あらすじ)幼少時に父親が性的犯罪を犯し、生来の頑固な性格もあり、北町貫多は、理由のない劣等感と怒りを込めて、埠頭の冷凍倉庫で5500円の日当欲しさに日雇い仕事を続けていた。彼はまだ19歳だったが、将来への希望も微塵もなく、同僚の専門学校生に柄悪く絡んだりして順当に道を踏み外していくのであった。他に、後年私小説家となった(!)貫多の思惑を描く「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」を併録。

嫌いな人なら数ページも読破できないであろう、ネチネチとした陰鬱な青春が描かれている。あらすじにあるように、父親が犯罪者になってしまったことで、彼の人生の鬱屈度合いはマックスに達し、木賃宿かと思えるような安宿で、5500円を稼いでは、酒と風俗に浪費するそんな青年の自堕落な描写が続いていく。

転機が訪れるのは、専門学校生という日下部という同僚の若者と友情めいたものが芽生える中盤から。ここで、一旦労働の苦しさは影を潜め「持つ者と持たざる者」の悲哀、もっと言うと貫多の日下部に対する愛憎入り混じった友情が描かれる。最終的には、彼らの運命は予想通りではあるのではあるが、途中、彼が日下部とその彼女に浴びせかける悪罵は、あまり悲しく、そして虚しいものだった。

労働の恐怖という意味では、上記の「うなぎ鬼」で挙げた作品群の方が面白いので、そちらをお勧めする。という訳で、最後に気づいたが、144回芥川賞を受賞している作品なのである。なるほど、いつも直木賞ばかり注目されて芥川賞があまり注目されない理由が良く分かった。この内容では若い読者はついて来ないだろう。ちなみに石原慎太郎が解説を書いているが、それもなんだかおざなりな感じで、全体的な陰鬱な雰囲気はぬぐい切れなかった。

その貫多が私小説作家になっているというはある種驚きの展開だが、パラパラと呼んだ「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」も良く似た作風の悲しい小説であった。

というわけで、積極的におススメはしないが、鬱屈した青春を過ごしている方やそうであった方には共感はできると思う。労働での事故やいじめなどの描写は少ないので、ホラーとしては読めないと思うが、便利な言葉で「文学」だと思えば、それなりに納得できるから不思議だ。短い小説なので興味があれば、一読されれば。

素直に共感はできないが、いいタイトルの小説ではあると思う。

(きうら)


-★★★☆☆
-, ,

執筆者:

関連記事

三丁目の地獄工場(岩城裕明/角川ホラー文庫)

不条理系スプラッタホラー短編集 最後の1作を除けば凡庸な印象 ホラーとは何を表現すべきか オススメ度:★★★☆☆ もちろん、読書の動機はタイトルである。注目したのは露骨な「三丁目の地獄」の方ではなく「 …

ファントム〈下〉 (ディーン・R・クーンツ (著) 大久保寛 (翻訳)/ハヤカワ文庫) ~あらましと感想

奇想天外なホラーサスペンスの完結編 住人500人が一瞬にして消失。その理由は? 少々強引だが、水準以上ではある。 おススメ度:★★★☆☆ (あらすじ)前編からの続き。一瞬にして500人の住人が消えうせ …

魔法使いの弟子 (ジョルジュ・バタイユ[著]・酒井健[訳]/景文館書店) ~紹介と考察

バタイユの「恋愛論」についての感想。 失われた実存の総合性を回復させるものとは。 デュカスの同名交響詩に少し触れられている。ちなみにダンセイニの小説とは関係ない。 おススメ度:★★★☆☆ (編者注)本 …

生ける屍(ピーター・ディキンスン[著]・神鳥統夫[訳]/ちくま文庫) ~印象と感想

ある島(国家)で行われる実験と、それに携わる男の行末。 ミステリーの要素が付け加わっている、社会派小説のよう。 紹介文というより、印象と感想を。 おススメ度:★★★☆☆ 私は、ディキンスンの作品は一度 …

新興宗教オモイデ教 (大槻ケンヂ/角川文庫)  ~あらすじ、感想、軽いネタバレ

人を発狂させる力をもった人間の暴走を描く 青春の行き場のないエネルギーのマイナス方向への発散 精神的なエロ・グロ要素満載 おススメ度:★★★☆☆ 「筋肉少女帯」などミュージシャンとしても有名な大槻ケン …

アーカイブ