★★★☆☆

蔵書一代(紀田順一郎/松籟社)

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  • 「なぜ蔵書は増え、そして散逸するのか」という副題
  • いつのまにか集まってしまう、それが蔵書
  • 蔵書が散逸するのは、日本の文化レベルの低下のせいか
  • おススメ度:★★★☆☆

2018年明けましたが、とくになんらおめでたいというわけでなく、そもそも年賀の祝いの「賀」が意味するものは、他人によいことがあったことを〔こちらが〕よろこぶということを表していると、以前何かの文献で読んだのですが、だとするとなんらよいことを強調するような状態にない者にとって、年明けの慶賀など、あってなきがごとし、それはまるで、経年劣化しすぎた金魚すくいの紙ポイのようにもろく崩れさって、掬われることも救われることもない。とはいえ、別段なにかわるいというわけではなく、ただすくわれきれなかったものたちが、いつの間にか破れ寺となった境内の、うち捨てられた水槽の壁に向かって雲のように固まるように、こだわりの夢を泳いでいるだけなのでした。

というわけで新年の挨拶となりましたが、なぜこのように新しい年がうれしくもないかというと、それは、いつも年明けにする、ある未達成の決意を更新させられるからでもあります。その決意とは、まあ端的に言うと蔵書の処分です。本書の著者である紀田は、老境に入り、約三万冊の蔵書をほぼすべて処分したことから書きだしましたが、私はそれには到底及びませんが、いよいよ処分しなければならない書物に囲まれています。蔵書という物質の塊でもあるものは、経済的にも逼迫する可能性があるし、何より家のスペースをとるものとして、とてもおそろしいものです。このおそろしさは、部屋の壁を本棚〔もしくは積み上げられた本〕で囲まれた人にしか味わえない特権的な恐怖なのです(ただのずぼら)。大地震にでも襲われたら無事では済まないかもしれない、という恐怖は何とも言えないものです(ただのストレス源)。紀田は若い頃、蔵書のもつ本当の意味、つまり蔵書維持の困難性について思い及ばなかったようですが、蔵書維持にそれほどこだわりのない私としては、いまのうちにその量を減らしておかなければならないと、本書を読んで今度こそ本気で思いました。とくに、蔵書処分に関しての紀田の苦労を読んでから。

紀田は、世間での〔個人〕蔵書を処分するに際しての、とくにそのなかでも包括性のある蔵書の散逸を危惧しています。例えば研究者やある程度有名作家の「普遍性のある」蔵書が行き場をなくし、古本屋などに散逸してしまうことです。どの自治体や研究機関も財政難により、一括しての蔵書受け入れを拒まざるをなくなってきていて、紀田はそれに関して、日本の文化レベルの低下や、日本には文化を継承していこうという意識のなさを嘆いているように読めますが、そもそもそんなもんはあったのでしょうか、よー知りませんが。また、紀田は日本の読者層(「ミクロの蔵書家」)の知的教養レベルの低下をも嘆いているように思えるのですが、それもまた蔵書維持に対する意識低下にもつながっているのかもしれません。

しかしそれは仕方ないかもしれません。本好きは多くいても、その本を〔包括性のある〕蔵書として収集管理していこうという人は少ないし、また公共性のある共有財産としての蔵書管理に助力していこうという人も少ないでしょうねぇ。本というものは基本読み捨てであるのが共通認識のように思えるし。その傾向は、将来的にさらに進むでしょうねぇ(電子書籍とかで)。逆に言うと、未来では極めて大きな質量を伴った蔵書からは解放されるということでしょうね。まあ今は過渡期ということでしょうか。紀田は、蔵書家はコレクターとは違うといいますが、まあそのことは措いておくとして、庶民が書に触れ蔵書を増やすというここ百年のブーム(?)は、これからは終息するということになるのでしょうか。

本書で面白かったのは、乱歩が行った自らの蔵書疎開に対する情熱でしょう。己が大量の蔵書をまず東京近郊の土蔵へと運びこみ、さらにそれらを貨車を借り受けて福島県へと運び、戦災から蔵書を守り抜いたのはすごい。乱歩作品に土蔵がよく出てくるのはまあともかく、鉄道省から貨車を借りうけるということは、国策に協力的な姿勢を見せていたことで軍部にでもコネができていたのでしょうか。その他にも、戦災から蔵書を守ろうとした人々の奮闘の挿話が紹介されていて、その苦労には頭が上がりません。そういう精神を受け継いで私も蔵書をある程度大事にしていきたい。とはいえ、そのうち処分しなければならないという、はじめの決意に戻るのでした。

(成城比丘太郎)


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