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★★★☆☆

虎鶫 とらつぐみ -TSUGUMI PROJECT-(1) (ippatu/講談社 )~簡単な紹介とベルセルク、はじめの一歩

投稿日:2021年7月5日 更新日:

  • 近未来サバイバル漫画
  • まだプロローグ
  • 画力はやはり高いと思う
  • おススメ度:★★★☆☆

先日、先に亡くなられた三浦建太郎氏の未完のダークファンタジー大作<「ベルセルク」の続きを別の人間が描くと誰が良いか?>というネットの書き込みの中で名前が上がっていたのが本作の作者ippatu氏であった。

本作の紹介の前にその「ベルセルク」について、少しだけ語りたい。青年期に衝撃を受けた漫画としては、私の中では寄生獣やカイジなどと並んでベルセルクは別格の扱いであった。序盤は良くあるエログロファンタジーという感じであったが「黄金時代」編で大化けして、蝕というエピソードを描く13巻でピークを迎え、私も含めほとんどの読者が感情を激しく揺さぶられた。その後はしばらくその余力で盛り上がっていたが、徐々にエピソードの衝撃度は下がり、逆に絵が緻密になっていった。なかなか進まない話に20年以上付き合ってきたのだが、私は長い話がこうなることに慣れているので、生きてるうちには完結するだろうと呑気に考えていた。しかし、本年の5月6日に三浦氏の訃報を聞いて呆然としてしまった。

一番に思ったのは、当時、これも続き過ぎてグダグダになっていたファンタジー小説であるグインサーガの栗本薫と同じ運命を辿ってしまったという感慨だった。栗本薫は早熟の天才作家で、若い頃は才色兼備の新鋭作家として、ミステリ・ファンタジー・評論など多ジャンルで成功を収め、自らクイズ番組に出るなど、社会に強い影響力を持っていた。しかし、晩年は、まさに時代に忘れ去られ、文壇からは無視され、一部の(私のような)ファン達だけに愛される存在だった。それも遺作となった130巻あたりを読むと納得するだろう。一度も推敲したとは思えないほど、雑で冗長な文章になっていた。かつての鋭利な刃物のような文体は、誤字をそのまま本にする程まで鈍っていたし、誰も批判すらしなくなっていた。長くなったが、その衰えた時代の栗本薫と対談し、はっきりとリスペクトを表していたのが三浦健太郎氏だったのである。

グインサーガはその後、プロットを流用し、別の著者を立てて現在も続編が刊行されているが、やはり似て非なるものだ。ベルセルクも同じことが言えると考えている。終わってしまった。しかし、創作とは喪失も含めて創作だと思う。私は大変悲しかったが、それが現実であると思っている。

という感想のもと、本作の紹介に移る。

内容は、ある超兵器(コードネームが虎鶫)によって滅亡した近未来の日本(旧日本)が舞台。政治犯として無実の罪で投獄されていたレオーネという眼鏡の青年が、その免罪をかけて、放射能によって汚染された旧日本へ赴く。目的はもちろん、超兵器の謎である。しかも、タイムリミットは1年と定められている。

ディストピアものとしては、先ずは無難なオープニングを迎える。自然に飲み込まれかけたビル群というビジュアルは、どこかで見たようなイメージだが、ベルセルクの代役に推されるだけあって、中々いい絵なのである。更に、鳥と人間のキメラであるつぐみという少女などは、確かに三浦氏のタッチに通じるものがある。はっきり描くと三浦氏の愛好したロリータと描写が似ている。二人の出会いのシーン、少女が髪留めにしていた鎮痛効果のある花を咀嚼してレオーネに吐きかける下りなどは、その筋の趣味が無いと描かないシーンだ。背景などは、書き込む場面を限定しているが、これが普通なのだろう。ベルセルクは異常過ぎだ。

ちなみに内容はサバイバルと言うよりは、アクション要素が強い。また、旧日本の住人は、どことなく漫画版「風の谷のナウシカ」の土鬼(ドルク)を思わせるようなデザインだ。一点だけ、気になって仕方なかったのが、最序盤の水の調達問題だ。当初主人公は相当意識してこのことを考えていたが、少女に会ったあと、口にしたのは水気の無さそうな花一つだけで、そのあとはすぐにカンパンを食べるシーンになる。サバイバル漫画として読んでいたのだが、かなり引っかかる。雰囲気は素晴らしいのだが、どうやらアクション方向へ伸びていくようだ。

いわゆる軟派なハーレム漫画は受け付けなくても、この雰囲気なら少女のデザインも許せるだろう。虎の化け物を操るという設定もあり、これは漫画「うしおととら」っぽくもある。ただ、力関係は少女の方が強い。色んなものがミックスされている漫画だが、そういう意味ではベルセルクもそうだった。個性を出すのはここからだろう。なので、謎をばら撒いているだけの一巻だけでは、この漫画を評価出来ない。ただ、続きは一応読んでみたいと思っている。これも何かの縁だろう。

(蛇足)これも長尺さで(そしてその劣化度で)有名な「はじめの一歩」もずっと付き合って読んでいる。この作者、森川ジョージ氏にいっときだけアシスタントについたのが三浦健太郎氏だった。森川氏はかなり悲痛なコメントを出していた。

(ここからは更に蛇足・はじめの一歩の最新刊のネタバレあり)
肝心の「はじめの一歩」最新巻(131巻)では、ようやく一歩の現役復帰についての伏線らしきものが見えてきた。一度引退した一歩が復帰するには相当強い動機付けがいる。それが何となく無敵の世界チャンピオンであり先輩である鷹村の敗戦と引退では無いかと思えてきた。千堂や宮田、リカルドといったライバルにそれを期待したが、その予想は外れた。残るは会長-鷹村-一歩のラインだけ。「現役復帰はない」と即答した一歩を奮い立たせるのは、この二人に「何かある」以外選択肢はないと思っている。200巻までは付き合う気でいるので、是非ともここまでの間延びした展開をひっくり返すビッグバンを起こして欲しい。何度も戻るが、ベルセルクもその予兆が見えたところだった。
「ヒストリエ」はもう完結は諦めた。ただ最近では20年越しで「アカギ」が完結した例もある。他にも「キングダム」など多くの長い漫画があるが、どうなるのかは、神のみぞ知る、か。

※栗本薫だけ氏を受けなかったが、何となく栗本薫は栗本薫だから他に呼びようがないからで、他意はない。私は今もグインが生きていると感じている。栗本薫は私の中で永遠に栗本薫なのだ。

(きうら)


-★★★☆☆
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