★★★★☆

飯降山(まんが日本昔ばなしより)~話の全容(ネタバレ)と感想

投稿日:2018年6月29日 更新日:

  • 3人の尼さんの山での修行の顛末
  • 人間の業の深さを描く
  • ラストの変貌ぶりが怖い
  • おススメ度:★★★★☆

はじめに

以前、「十六人谷」を紹介した時にも断ったことだが、この作品も現在、正式なルートで手に入れることはできない。某動画サイトでは、なぜかまだ観られる状態だが、あくまで非公式なのでリンクは貼れない。写真のDVDにはもっと当たり障りのない作品が収められている(全12集をチェックしてみたが、やはり両エピソードともない)。

この「飯振山(いぶりやま)」は、「十六人谷」に比べると、ずっと大人しく、残酷な直接描写もない。しかし、逆に大人にしか分からない人間の罪深さ、そして、恐ろしさが描かれている。そして、原作者が「ぼのぼの」で有名な「いがらしみきお」氏であるというのもポイント。作者には少し思い入れがある。

あらすじ(話の全容)

ある秋の山に三人の尼さんが修行にやってきた。その光景を見ているのは、名もなき木こり。若い娘、中年の尼さん、年寄りの尼さんという三人で、特に年寄りの尼さんは、木こりから見ても「修行するとこんなに穏やかな顔になるのか」というような尊顔をしている。しかし、獣食を禁じられた彼女たちの修業は決して生易しいものではなく、眠るところも食べるものも無いような状態だった。彼女たちは近隣のキノコなどを食べつくしていた。
そんな時、事件が起こる。若い尼さんが天から何か振ってくるのを見つける。彼女が駆け付けると、切り株の上に置かれた3つの「おにぎり」があった。3人は集まって、誰かの施しか、天からの贈り物かを議論するが、結局はそれを有り難く頂くことにする。ここで歯車が狂い始める。
ある朝、若い尼さんは、鳥を捕まえて焚火であぶって食べた後を発見する。状況から見て、上の二人のうちのどちらかがやった可能性が高い。もちろん、地元の漁師の可能性もある。年上の尼さんは「とにかく、その鳥のために祈りましょう」と言って、崖で祈りをささげる。だが、その途中、上の二人は若い尼さんを見て(無表情でお経を唱えている)、次の何もない風景シーンでは、悲鳴が聞こえる。
中年の尼さん、年寄りの尼さんの二人は、おにぎりが置かれている切り株に走っていく。しかし、そこにあったのは期待した「3個」ではなく「2個」であった。「とにかく、あの娘のために祈りましょう」という年寄りの尼さん。そして、また崖で祈る二人。しかし、お経を唱えつつ、二人は無表情で互いの顔を見つめあうのであった。そして、また、何もない風景のシーンで悲鳴が聞こえる。
そして、最後に残った年寄りの尼さんは、ある期待を胸に切り株に急ぐ。しかし、そこには「おにぎり」は1個もなく、彼女は絶望に包まれるのであった。おりしも冬が来て、尼さんの様子を見ていた木こりも山を下りる。
そして、春。再び山に来た木こり。気配を感じて藪を見てみると、現れたのは、全身ボロボロになり、まるで山姥のような姿に変貌したあの尊顔の尼さんだった。「私ですよ」と彼女。「以来、この山は飯振山と呼ばれるようになった」というナレーションで幕。

怖さのポイント

これは表面を見ていると、人間の浅ましさを描いているアニメに思える。突如施される「おにぎり」を奪い合って、三人が殺しあうというバトル・ロワイヤルである。しかも、より弱い方から駆逐されていくという残酷さをストレートに表現している。どうも鳥の肉を食べたのは、画面の様子から上の二人が結託してやったことであるように思える。最初はつつましかった三人が、たったおにぎり3個で、殺し合いにまで発展する恐ろしさ。

さらに、これは「一度転がり落ちると、人間の所業は落ちるところまで落ちてしまう」という、悪への誘いを表現しているともいえる。たかが、おにぎり3個の増減だけで、殺人に及ぶ人間とは何者なのか。この辺が、直接的な残酷描写がないにもかかわらず、妙な後味の悪さを感じさせる要因ではないだろうか。

そして、最後に年寄りの尼さんが言うセリフ「私ですよ」。姿は変わり果てているが、あくまで「(人間の)私」であると主張する彼女は、人の醜さの象徴であり、キレイゴトを打ち砕く「胸糞の悪い話」である。さらにカニバリズムも微かに示唆している。人の獣性を余すところなく描いた傑作サイコホラーアニメだと思う。

なぜ、昔ばなしなのか

しかしである。土曜の夜に楽しみにアニメを見ている小学生に、人間の獣性を見せてどうする。しかも、表面上はほとんど怖い絵がないので、深層心理というか、深い所に突き刺さるような内容だ。感性の鋭い小学生なら、何が不気味か直感的に理解できる。それもそのはず「ぼのぼの」のヒットで、一般的には癒し系の漫画家として知られている「いがらしみきお」氏だが、彼の初期の作風は、エログロ何でもありの破滅的4コマ漫画だったのである。以下の漫画は強烈である(五巻まである)。ほぼ全編下ネタと言ってもいいはちゃめちゃさ。どういう経緯で依頼されたのか分からないが、のちに「Sink」や「I」などホラーを描くようになった氏としては、当然の作風だったのかも知れない。しかしまあ、「まんが日本昔ばなし」の怪談シリーズにあって、精神的に来るという意味では一二を争うように思う。それにしても、なぜ、ガチンコホラーをゴールデンタイムに流していたのかは謎だ。サバイバルホラーと絶望を描く「吉作落とし」や日本人としては一番怖い「みちびき地蔵」、そしてスプラッタと言える「三本枝のかみそり狐」など、トラウマ製造マシーンとしても長く愛されたアニメであった。
とにかく、やはり怖いのは「人」だと思える一本である。ちなみに10分ちょっと。このキレのある展開が素晴らしい。

(きうら)



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