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首無の如き祟るもの(三津田信三/講談社)

投稿日:2021年4月5日 更新日:

  • 疑昭和調の推理サスペンス小説
  • 謎解きがメイン、幾重ものミスリード
  • 猟奇要素は控えめ。あくまで推理を楽しむもの
  • おススメ度:★★★☆☆

当ブログのコメントからおススメ頂いた一冊。あらすじはAmazonの紹介から引用させて頂くと、

奥多摩の山村、媛首村。淡首様や首無の化物など、古くから怪異の伝承が色濃き地である。三つに分かれた旧家、秘守一族、その一守家の双児の十三夜参りの日から惨劇は始まった。戦中戦後に跨る首無し殺人の謎。驚愕のどんでん返し。本格ミステリとホラーの魅力が鮮やかに迫る。「刀城言耶」シリーズ傑作長編。

これは正真正銘の推理型小説であり、ホラーには重きを置いていない。粗筋だけを読むと、大量殺人や猟奇的要素が想起されると思うが、実際の死人は5人程度であり、戦前の事件は単一の人物が殺される、いわゆる「連続殺人」ですら無いのである。また、性的要素も登場するが、それもトリックの重要性を考えるとかなりそっけない描写になっている。要するにエロスには興味はないという主張である。余り好きな表現では無いが、殺人はこの小説の中では単なるアイコン、あるいは儀式であり、作者の構想を展開するための一要素に過ぎないのである。

では著者は本書を通じて何がしたかったのか? 端的に言えば、読書の(推理)予想を裏切りたかったのだろう。冒頭から、執拗に繰り返される読者への語りかけ、「論理クイズ」と言っても過言ではないほどの中間での行動履歴の整理など、「この完璧な物語のフェイクを見破れるか」という挑発行為を繰り返してくる。これは読まないと意味が分からないと思うので大丈夫と思うが、一応ネタバレの一種になるので、気になる方は以下は飛ばして本書を先に読んで下さい。

(間隔)

著者は叙述トリックを入れ子構造のように駆使して話をすすめる。それは叙述トリックではないという告白すらも利用する執拗なものである。具体的には著者による作中作者を創作し、更に小説内に一人称視点の3つ(4つ)のパートを用意するという念の入れようである。

話としてはむしろ単純で、代々続く呪いによる「非」殺人事件とあからさまな殺人事件との交錯という大まかなプロットがあり、戦前に前談となる殺人、戦後に連続殺人が起こる様子が書かれているが、パズルのピースが嵌るのを順番に眺めていくような読書感だった。私は大オチも含めて、途中で犯人が分かったりはしなかったが、事件の謎解きが済んで感じたことは「スッキリした」「ホッとした」という凡庸なものであった。

何しろ擬昭和調と書いたが、まず、人物の名前がとにかく読みにくい。当て字も多く、細かい読み方の差異には時に苛立ったりもした。ルビの振り方が不規則で慣れないせいかも知れない。また、架空の古い閉鎖的な村社会が表現されているが、これも今ひとつ深いバックボーンを欠いているようにも思う。ただ、それなりに史実との繋がりは言及されているので、何ちゃってホラーのようなペラペラ感は感じない。むしろ、そういった「現代的」要素を感じてしまうのは、登場人物の台詞だろう。特に老人の言葉が時に今風過ぎたりして、そこは少し残念だった。

名前のややこしさも意図的なものかも知れないが、それさえ乗り越えられれば、推理物に興味が薄くても楽しめるとは思う。私は一応ホラー志向であるので、まるで複雑な組み木細工のような推理小説は、読者として住む世界が違うな、とは思う。ただ、本作では一ヶ所、優れたホラー的表現があったので、その点は高く評価したい。髪の毛に纏わる部分であるが、ビジュアル的にありそうで無かった造形なので、そこは非常に楽しめた。興を削ぐので書かないが、前半のクライマックスであろう。

読み終わって改めて感じるのは、演劇を小説で読んでいたような不思議な感覚だ。リアリティが無いというより、作られたセットの中で物語が展開されていたので、敢えて言えばファンタジー小説を読んでいた感じだろうか。話は逸れるが「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」「ドラえもん」などの設定は、明らかに昭和であろう。ただ、エピソード自体は面白く観られるので、やはりファンタジー化しているのだろうか? 今の子供達はどういう気持ちでその手のアニメを観ているのだろうか。とても気になる。そう言えば最近見たエヴァに出てくるDATを理解できない若者も多いのではないかと思ってとても気になった。うーむ、どうでもいいか。

ファンタジー化はもちろん悪いことで無く、物語を普遍化できる所が長所だろう。また、おススメ頂いたこともあり、いつもより興味深くも読めた。そう言う意味でも楽しめた一冊であった。

(きうら)


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