- 現代ファンタジーの原点。
- デュカスの交響詩『魔法使いの弟子』とは、全く関係なし。
- 魔法使いから影を取り戻す、ラブロマンスともいえる。
- おススメ度:★★★★☆
(導入説明)<塔の岩森>の若者「ラモン・アロンソ」は、彼の城の財政難をたすけるため、森に棲む魔法使いのもとへ向かいます。魔法使いと彼の祖父とはある約束を交わしていました。彼はその約束を果たすために、詳しくいうと錬金術を教えてもらうために、森へと赴いたのですが……。
もう10年以上前に、河出文庫からダンセイニの作品集が立て続けに出版されて、そのうち本書なども文庫化(再々文庫化)されるだろうと思っている間に、10年以上経っても(どこからも)出版される気配もなく、読む機会を逸して、仕方なく今回の紹介のために古本を取り出しました。ここまでくると、もう文庫の新刊では出ないだろうなぁ。
さて、ダンセイニというと、トールキンやラヴクラフトや稲垣足穂などなどに影響を与えて、『夢見る人の物語 (河出文庫/Ama)』の文庫帯には、「『指輪物語』も『ゲド戦記』もここから生まれた」とあります(ちょっと大げさか)。ラヴクラフトには、ダンセイニ風の作品もあります。しかし、言語学者のトールキンは、ダンセイニの(思いつきな)名前の選び方に批判的だったようですが(『時と神々の物語』「訳者あとがき」)、私は『ペガーナの神々』に出てくる様々な名前の響きには、不可思議さを感じて好きです。
訳者の荒俣宏は、本書のことを「これを読まずしてファンタジーは語れない」(『別世界通信』)と紹介していますが、実際に読んだみたところ、確かにファンタジーを専門的に語ろうとする際には読んでいなければいけないでしょうが、普通の(現代の)ファンタジー好きは、別に読んでいなくてもいいんじゃないかというのが率直な感想です。とはいえ、面白くないわけではなく、現代の映画ファンが昔の映画を観るような感じで、昔のファンタジーとして楽しめます。私としては、ダンセイニの他の幻想作品の方が、不思議で奇想な感覚を味わえます。
この本の原題は、「The Charwoman’s
Shadow(掃除女の影)」というもので、「影」が重要なファクターです。魔法使いが集めているのも人の影で、それらを空の遥か先の世界への連絡役として使ったりしているのですが、そもそもこの魔法使いは「邪悪」なものというより、自らが追究することと、その意志に忠実であるという感じです。それに巻きこまれた人たちは不幸なのですが。この影をめぐる物語は、シャミッソーの『影をなくした男』を思いださせます。また、『ゲド戦記』の「影との戦い」にどれだけ影響を与えたか分かりませんが、『ゲド戦記』のような影のおそろしさはそれほど感じません。
魔法使いのある呪いを打ち破るのが、神父であるのというのが、興味深いところです。魔法使いと、その弟子である「ラモン」の駆け引きもさることながら、城に住むラモンの妹の縁談話と、ラモン自身のロマンスと、美しい光景の描写と、これらも読みどころです。
(成城比丘太郎)