- 著者が実際に乗った「飛行機の墜落事故」のレポート
- 前半はブラジルでの少数民族に関するドキュメント
- 冷静な文章で読みやすい。むしろユーモアも。
- おススメ度:★★★☆☆
前回紹介した「クライマーズ・ハイ」は過去の凄惨な飛行機事故を題材に取った小説だったが、こちらは「深夜特急(新潮文庫)」などで著名な沢木耕太郎自身が実際に遭遇した飛行機事故のドキュメント。
2001年、ブラジル郊外での小型セスナ飛行機の事故の様子が語られるが、もちろん、最初はこういう本を出すことは考えていなかっただろう。本の紹介を引用すると、
著者を含む取材スタッフは、現代文明に一度も接したことのないアマゾン奥地のインディオについてのテレビ番組を企画していた。免疫のない彼らは現代人(文明)と接することで、病気や悪弊などをうつされて死亡したり、その共同体が崩壊したりしていた。ブラジル政府職員のポスエロ氏は、そんな彼らを救おうとしている人物で、スタッフはまず彼に会うことにした。
と、書かれている通り、本来は民俗学的見地からのNHKのドキュメンタリーの取材だった。実際に2003年にNHKスペシャルとして「沢木耕太郎アマゾン思索紀行/隔絶された人々イゾラド」という題名で放送されている。ところが、実際に飛行機は墜落してしまうのである。
その顛末についてはリンク先のAmazonの本の紹介に書かれているが、もし、興味を持たれたら、敢えて何も読まずに、この本を読まれた方が面白いだろう。本人が書いているので、もちろん死亡事故ではないのだが、NHKのスタッフや現地の政府職人も魅力的に描かれているので、その人たちがどうなるか、結末を知らないと結構ドキドキするだろう。
それに何より、作風が妙に冷めているというか、むしろ明るいのである。日航機関連の小説の後に紹介すると少々不謹慎かなと思えるほど、後半はユーモアに溢れている。特にセスナのパイロットとのやり取りは非常に面白い。
自分が乗った飛行機が墜落して、さらにその時の感想を書ける人間がどれだけいるかと思うと非常に貴重なドキュメントだとも思う。これは著者の魅力もあると思うが、墜落時に考えることが妙にリアリティがある。著者が飛行機が落ちる瞬間に頭に浮かんだセリフは何ともシュールであるが、妙に納得してしまった。
ご存知の方も多いと思うが、上記の「深夜特急」の第1巻が発行されたのは1986年で、2017年から遡るともう30年以上も前だ。深夜特急そのものは今読んでも非常に面白い本だが、この本を面白く読むためには、少し著者の別の本を読んでからの方がいいかもしれない。ちなみに、過去に紹介した「凍」は山岳ドキュメントとして他に例を見ないほど面白い本なので、未読の方には改めておススメしておく。
(きうら)