- 近年稀に見る脚本の出来栄え
- 色んな方向に突き抜けたファンタジー
- 原作はともかくドラマは見事
- おススメ度:★★★★★
本ドラマは日本での知名度はその実力からしてかなり低いと思っているが、知っている人は説明など必要ないし、興味のない人にこれ以上の作品を勧めることもできない。なので、あらすじはおわずに、雑感という形で書いてみたい。
実は昨年に完結したことは知っていたが、リアルタイムでは追わなかった。熱が冷めていたというのも確かであるし、終わってしまうのが寂しいというのもあった。しかし、この10年、73話まで付き合ったドラマはこれだけだ。特に中盤の展開は凄まじく、先の読めない物語に毎回固唾を飲んで画面を見守っていた。
大きな特徴として、重要人物を意外なタイミングで次々と殺してしまうことが挙げられる。ウケ狙いで、無茶な展開を仕掛けているのでは無く、キチンと計算された意外さなのである。主役と思っていたキャラクターが死んで行くので、毎回、唯ならぬ緊張感があった。敵も味方もとにかく個性的なキャラが先に死ぬ。これでドラマが続けられるのかと、余計な心配をするほどだった。こういう作り方はこれだけの長尺ドラマでないと無理だ。エピソード4でルークが死ぬでしまうスターウォーズなんて誰も観たくないだろう。しかし、第1シーズンの10話が、ほとんど前フリとして作られているようなもの。これでコケてたら意味不明なドラマだっただろうが、キチンとウケた。まあ映像も豪華だったのだ。一番安いと思われる第1シーズンでさえ80億円かけて制作されている。日本で一番金がかかっている大河ドラマが1本1億らしいので、単純に8倍。いや映画でも80億もかけられる日本映画は今は無いんじゃないか。
金の話はどうかと思うが、やはりディティールが安っぽいとさめる。城や武器、軍勢などもちゃんと描けている。ちょっとした小道具にもこだわりが感じられる。和製映画のCGのショボさはいつまで経っても変わらないので余計にそう思う。朝ドラとかあからさまにセットです、みたいな質感や、アフターエフェクト一発合成なんぞ、いつまでやっているのだろう。あと、主役を無理やり何十歳も歳下の設定で始めるのもやめて欲しい。誰とは言わないが……。
日本ではなんか安い予算で作ることを美徳とするような風潮もあるが、やはり予算は大事だ。特にファンタジーは金がかかる。初期は映画ロードオブザリングには劣るが、最終話は映画と言われても分からない映像だった。いやまあ良くやり切った。さすがに途中、余りに露骨にキモい展開やダレるシーンもあったが、最後まで期待を裏切られ無かった。余りに強烈なので、空で今でも思い出せるシーンが幾つもある。ほとんどが残酷シーン。スタッフロールが出ても固まったまま、呆然としていたこともある。この感じは久しく忘れていた感覚であった。本国での空前のヒットも納得である。
今知っている物語の展開に飽き飽きしていている人ほど、是非観て欲しい脚本と演出。設定はありふれていても、これだけ丁寧に脚本を練り、物語を制御すると、まだ「新しい話」が作ることができるのだ。
難点があるとすれば、物語の進行の為に、あらゆる手段を使うので、全年齢対応とはいかないところ。主役級キャラに次々と残虐な運命が降りかかるし、男性・女性問わずに性的な虐待も多い。子供も平気で殺すし、頭が潰れるシーンも余さず描く。思い入れのあるキャラが、最悪の死に様を見せて散っていくという……誰が生き残るかは想像できないだろう。
ただ、やはり所々、やり過ぎなシーンもある。本来はホワイトウォーカーという氷のゾンビみたいなキャラクターとの戦いが主題なのだが、ドラマはかなり人間側に寄っている。まあそれでいいんだが、余りに人間ドラマがリアルなのでモンスターに違和感があったり。また、やり過ぎという意味で、一番衝撃的だったのはある暗殺シーンだが、山田風太郎もびっくりの超絶エログロナンセンス魔法が炸裂する。そこだけは笑ってしまった。
長いドラマなので、主役陣も想定以上に歳を取っていく。美少年と美少女があっという間に……これは仕方ないか。ただ、唯一名前を出せば、主人公スターク家の二女アリアの行動だけは、理解できないシーンが多かった。この辺りはスッキリしない視聴者も居たのではないだろうか。
大人の鑑賞に耐えるファンタジー映画(ドラマ)は長らく実現しなかった。ウィローやバンデット、ネバーエンディングストーリーなどのSF時代にもそれなりに惹かれる映像もあったが、誰もが納得できる映像の映画は「ロード・オブ・ザ・リング」三部作まで待つしか無かった。それをキチンと踏まえて、本作は超シリアスに製作されている。ディズニー的な甘すぎて胸焼けするファンタジーへの強烈なカウンターとしても本作は意義深い。ありのままに生きられない人々の残酷かつ美しい物語「ファンタジーはちょっと」というあなたにこそお勧めだ。
ちなみに原作本(翻訳)を読んだが、こちらはドラマには及ばないという珍しいパターン。途中で著者がドラマの脚本に入れ込んでいるので仕方ないが……。
(きうら)