- 人間将棋というトリッキーなテーマ
- 非常にタクティカルな展開、オチはまあ
- 貴志作品最強の飛び道具。将棋ペンクラブ大賞で特別賞受賞。
- おススメ度:★★★☆☆
刊行された貴志作品はほぼ読んでいるが、その中であっても異色の出来なのが、このダークゾーンだ。傑作SF「新世界より」やよくできたサスペンス「クリムゾンの迷宮」などにも、ゲーム的な戦略要素は多分にあったが、この作品はその「ゲーム的要素」だけにフォーカスした作品だ。貴志氏の筆力であるから、一通り面白く読めるが、その設定といい、内容といい、オチといい、異色作であるのは間違いない。まさに飛び道具である。
(あらまし)男女取り混ぜて18人が突然、良く分からない場所で覚醒する。そして、頭の中に響くのは「戦え。戦い続けろ。」という言葉だ。かくしてプロ将棋棋士の卵・塚田は、赤い異形の戦士として、青い軍団との戦いを強要されるようになる。その理由は一体何か。ルールはチェスとも将棋ともつかないものだが、敵を取って「駒」にできる点や、戦いに応じてレベルアップするなどまさにゲームそのもの。勝負は七番。このバトルの結末はいかに――。出だしだけ読むと、全く漫画の「ガンツ」っぽいが、もっとストイックに勝負が繰り広げられる。
彼らが戦うフィールドには詳細な設定があり、それぞれの特性や相性などが細かく設定されている。上記に書いた通り七番勝負なので、一回負けても復活して次の勝負に挑むことになる。この設定が非常に微妙で、一回死んだら終わりだった「クリムゾンの迷宮」などと比べると、どうしても緊張感が削がれるのは否めない。もちろん、倒されることによるペナルティは存在するが、ヒリヒリするような緊張感というよりは、まさに将棋のような心理戦を楽しむような内容になっている。
微妙といえば、やはり本作の恋愛要素だろう。私はかねがね、貴志氏は恋愛要素には向いていないと感じている。これは「スター・ウォーズ」のジョージ・ルーカスに感じた違和感と同じもので、人には向き不向きというものがある。通り一遍のポイントは抑えられているが、いわゆる「萌える」要素に欠くのは仕方ないだろう。
総じて「奇書」足りえる要素は多分に持っているし、ホラー小説としても十分に機能しているので、今話題の将棋ネタ(2017年07月現在)でもあるし、一読してみてはどうだろうか。ただし、結構長いので覚悟が必要だ。
蛇足になるが、実力+容貌+話題性が重なると普段はメディアで取り上げられることが少ない競技でも必ず話題なると実感する。今の将棋や若貴ブームの相撲を思い出す。そういえば、「月下の棋士」というこれもとんでもない内容の漫画もあった……。
(きうら)