- 西部劇風のロードムービー風娯楽小説
- ファンタジー要素が多数
- キング作品の根幹となるシリーズ
- おススメ度:★★★☆☆
キング作品ではおなじみの長い前書きで書かれているが、この作品はJ.R.R.トールキンの「指輪物語」にインスパイアされて、キング流の神話あるいは、冒険要素のある叙事詩大作を書こうとして出来上がった作品。実に19歳の時ということなので、作品の出来からすると流石のクオリティだ。ただしそこはモダンホラーの帝王。指輪物語的な上品さはカケラも無く、荒廃した世界に西部劇の雰囲気を持ち込み、血と悪魔と性的な描写が盛り込まれた何とも形容しがたい内容になっている。一巻はプロローグだが、いわばファンタジー西部劇というイメージだ。
(あらすじ)ガンスリンガーは暗黒の塔を目指し謎の暗黒の男を追って、荒廃した世界を旅している。彼は二丁拳銃を操る達人で、悪人やミュータント達と果敢に戦う。旅の途中で立ち寄る町、共に旅することになる少年……。黒衣の男の痕跡を追って旅は続く。因みにガンスリンガーは称号の様なもので、名前では無い。一応、彼の幼年期の回想からするとローランドと言うようだ。
読者は比較的長い前書きが終わると、文字通りガンスリンガーと共に荒野に放り出される。そこは悪魔草が生え、生物の気配が乏しい開拓前の荒野の世界。よくイメージする西部劇の世界に酷似しているが、同時に魔法めいたものも存在していてゾンビ化した住人なども出てくる。
一言で言えば、ホラーやファンタジーを混ぜたロードムービー風小説で、ひたすら乾いた世界が描かれる。怪物も出てくるし、キング流のお下品描写も満載だ。途中、ガンスリンガーの出自なども描写されるので、徐々に感情移入できる様になってくる。
しかし、これは全部で7冊ある長編小説のプロローグに過ぎず、お話は最後まで読んでもどこに向かっているのかはよく分からない。面白くなりそうな要素は沢山あるので、2巻以降を読んでくれ! というキングの声が聞こえる。
バトルシーンも多いが、この辺は若い時の作品だけあってアイデアも満載。俗な言い方をするとキングなりの厨二病小説ということになるが、その辺の素人の黒歴史に終わっていないのはプロ。
それにしても指輪物語からどうしてこんな血みどろファンタジーが生まれるのか。キングは事あるごとに「ザ・スタンド」が他の作品より愛されるのか半ば不満げに語っているが、読者からすれば簡単だ。話がわかりやすくて怖くて、キャラクターが魅力的だからだ。ガンスリンガーの一巻はまだその辺が弱い。ただ、ザ・スタンドも本格的にエンジンがかかるのは中盤辺りからなので、キング長編作品は焦らずじっくり付き合うべきなんだろうと思う。
最後に訳者後書きでも触れられているが、この作品の構想が後の作品と多数リンクしているので、そういう意味でもキングファンとしては読まねばならないと思い手に取ってみた。取り敢えず二巻を探しにいこうとは思っている。
(きうら)