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★★★★☆

パシフィック・リム(ギレルモ・デル・トロ監督)~あらすじと感想、続編について

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  • 清く正しい「怪獣」映画
  • 日本アニメxハリウッド映画
  • 穴もあるが日本人「男子」にはいい映画
  • おススメ度:★★★★☆

ギレルモ・デル・トロ監督と言えば、メキシコ出身の元はマニアックなホラー系映画監督である。「ミミック」「パンズ・ラビリンス」や「デビルズ・バックボーン」など、かなり「痛い」描写の多い映画で、その独特なセンスが評価され、「ヘル・ボーイ」の監督や「ホビット」の脚本などに抜擢されるなど、アメリカ系以外でハリウッドで活躍している監督の一人。その代表作の一つが、この「パシフィック・リム」である。古い映画ないので、もう3、4回目の鑑賞となったが、やはり日本的でパワフルな作品だ。

(あらすじ)海底に出現した亀裂から、突如「カイジュウ」が、世界に襲い掛かった。人類はそれに対応するため、イェーガー(ドイツ語で狩人)という、人間が乗り込む巨大ロボットを建造した。一時はイェーガーは、カイジュウを圧倒したが、ある時点を境に、敵の勢力は強力になり、人類は存亡を脅かされるまでに劣勢になっていた。その分岐点となる戦いで、敵と相打ちになったイェーガーに搭乗していたローリー・ベケット(チャーリー・ハナム)は、パートナーの兄を失い、作業員に落ちぶれていたが、再び、カイジュウとの戦いに呼び戻される。そこへ、これまでにない強力なカイジュウが現れる。

エンドクレジットで、レイ・ハリーハウゼン(ストップ・モーション・アニメーションの技法の名匠)と共に「ゴジラ」の監督「本多猪四郎に捧ぐ」と、示している通りデルトロ監督はかなりの日本映画びいきであることが分かる。映画でも「カイジュウ」はそのままの発音で取り入れられているし、日本人のキャスト(菊地凛子や芦田愛菜)を重用しているなど、日本的怪獣映画へのリスペクトは本物だ。この辺のキャストは大抵は日系外国人に割り当てられるので、監督は本当に日本の文化に理解がある。

ただ、興行収入的には本国アメリカでは思ったほどでもなかったらしく、続編の企画はすんなりとは通らず、2017年9月現在、続編の「パシフィック・リム:アップライジング」が2018年3月公開とされている。それは、日米のロボット観の相違にあるのではないかと思う。

浦沢直樹の漫画「20世紀少年」でも、作中でも論議されていたが、ロボットは「乗るものか、操るものか」という議論がある。乗りものとしは「マジンガーZ」、操る系としては「鉄人28号」が挙げられていたと思うが、アメリカ的にはロボットは圧倒的に「操るもの」であり、もっと言えば「わるもの」として描かれることが多い。「ターミネーター」や「宇宙戦争」、「2001年宇宙の旅」、「トランスフォーマー」など、アメリカ映画に登場するロボット(AI)は、自立的に行動し、人類の味方乃至、敵として描かれる。ガンダム宜しく、搭乗兵器としては見られていないような気がする。

そこに真っ向から、ロボット搭乗型の映画を作ったギレルモ・デル・トロ監督には拍手とを送りたいが、アメリカでは違和感の方が強かったのだろう。最終的に興行的にはプラスに転じたが、アジア市場での貢献が大きかったようだ。実際に、一番の見せ場は香港を舞台にしている辺り、狙ってアジア向けにしたとも思えるが、それ以上に監督の怪獣映画やロボットに対する思い入れを感じる作品だ。

イェーガーの設定は、エヴァンゲリオンっぽいシンクロ率を計るし、戦闘シーンは飛び道具ではなく、肉弾戦中心だ。その他、日本の怪獣映画・アニメなどからの影響は多々あるだろう。何度も観て思うが、怪獣を研究する博士二人のキャラクターにしても実にアニメっぽい。約200億円以上を費やした映像は、日本的でありながら日本映画では絶対に見られない豪華な映像になっている。

何度も見ると作品の粗も分かる。勢いで押し切っているが、細かな設定はいい加減だし、原子力の設定もどうかと思う。選択肢がなかったので、仕方ないと思うが、菊地凛子はヒロインに適役とは思えない(芦田愛菜→菊地凛子にはならないと思う)。CGは夜が多いので、昼間のシーンでくっきり観てみたかった。ラスト周辺は、まさに「バンザイアタック」の美学で、緻密な展開とは程遠い。ロシアや中国のロボットの扱いも酷い。ドラマシーンは、一部を除き、あってもなくてもいいような感じだ。

「シン・ゴジラ」以上にグロテスクな表現もあるし、見事なほど恋愛要素を除外しているのは良く分かっているというか、狙い過ぎというか、特定の男子向け映画の典型的な映画になっている。簡単に言えば、巨大ロボットによるプロレス映画なので、そういう要素に興味のない方は、単なる大味な映画に過ぎないだろう。

恐怖要素は少ないとはいえ、むしろストイックな怪獣映画として、評価できる一作だと思う。ホラーを期待される方は、残酷表現も桁違いな「パンズ・ラビリンス」、アニメ的キャラクター性を追求するなら「ヘルボーイ」の1、2作をおススメしたい。特に「ヘルボーイ」はアメコミというより、日本的アニメ、ファンタジー要素が強いような気がする。興味のある方は、ぜひ、この辺の映画もご覧頂ければと思う。

(きうら)


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