- 驚愕するほど美しい情景と音楽
- 脊髄を突き抜けるエロス
- 愛を問う残酷な物語
- おススメ度:★★★★✩
(あらまし)舞台は19世紀半ば。主人公の未亡人エイダは娘とともに、荒ぶる海を隔てた野蛮な土地へと嫁いでいく。彼女の愛するピアノと一緒に。エイダは口がきけない。だから彼女にとってピアノは言語代わりなのだが、彼女の夫はそのことを理解できない。ピアノはあるものに交換され、それを取り戻すためにエイダは相手の男に「ピアノ・レッスン」を行う。しかし、男の目的は美しいエイダだった。彼は性的な要望を出し、その対価としてピアノを返すことを約束するのだが……。
まずは音楽を担当したマイケル・ナイマン。私はめったにサウンドトラックというものを買わないが、この映画はさすがに買ってしまった。映画と一体化した美しいメインテーマ。この曲は、エイダの愛情そのもの。高ぶる心、悲しむ心、調子を変えて何度も流れるがその度に言葉にできない感情に襲われる。これは音楽でしかできないこと。
そして、主人公のエイダ。ホリー・ハンターが演じているが、言葉を失った頑なな女性を見事に演じている。貞操観念の強い清純な女性から、愛に殉じる女性へと美しく変わっていく。また、彼女の子供を演じたアンナ・パキンの名演も光る。映画の内容的に彼女の年齢で演じていい役ではないのだが、残酷で美しい天使を演じている。
この映画は、エロティックな要素に満ちている。しかし、これはいわゆるポルノ映画ではない。なぜなら、このエロスは、この物語にとって必然性があるからだ。この部分を「綺麗に」描いてしまうと、クライマックスの美しさが全く生きてこない。真剣に、堂々と語られる情愛の世界は、いつしかやがて、愛とは何かということについての問いかけに変化する。
実はホラーとしても、けっこう怖い場面が多い。直接的、間接的な暴力があちこちにばら撒かれていて、かなり怖いのだ。終盤の展開などサイコホラーそのもの。あの場面は本当に恐ろしい。ぜひ、ご自身で確認を。
不満があるとすれば、エイダの夫が惨めすぎるということだ。彼は余り間違ったことはしていないのだが、最も不幸になる。そこだけが、同じモテない人間としては、同情してしまう。彼もまた、愛に飢えていたのに。
残酷かつ美しい。しかし、相当背徳的なので、決して家族みんなで見たりしないように。
(きうら)