3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★★☆☆

ホラー小説大全 ドラキュラからキングまで(風間賢二/双葉文庫) ~内容の紹介

投稿日:2017年7月22日 更新日:

  • 文化論も含む硬質な欧米ホラーの概観
  • 歴史、3つモンスター、おススメ本100冊の3つのパート
  • ガイドブックというよりは、正統派の評論としての性格が強い
  • おススメ度:★★★☆☆

怖い本の紹介サイトで、さらにそのガイドブックを紹介するというのは矛盾を感じるが、私自身、これまでの更新を見て頂いたら分かる通り、系統立ててホラーを紹介できるような知識もなく、特に欧米ホラーの紹介はごくごく一部の作家に限られているため、本書をセレクトしてみた。当初は、もっとお気軽なガイドブックを予想していたが、ホラーと欧米の社会や文化を絡めた本格的な評論が主体で、題名よりずっと高尚な内容だ。

本書のパートは、ホラーの起源からスティーブン・キングなどのモダンホラーまでを評論する第1部、フランケンシュタイン、ドラキュラ、狼男を掘り下げて解説する第2部、おススメのホラー小説をジャンル別に紹介する第3部に分かれている。主体となっているのは第1部で、これは気合いの入ったホラー史の解説である。私など、ほとんど名前も聞いたことのない作家たちの代表作が鮮やかに紹介され、その歴史的意義や社会的な背景が語られる。

注意しないといけないのは、それらの作品内容の詳細については、ほとんど語られないということ。ごくごく一部に抜粋はあるが、例えばゴシック・ホラーの定義や誕生の背景、恐怖の構図については詳しいが、それを記した作品のあらすじなどはほとんど書かれていない。従って、最初に書いた通り、ガイドブック的な視点ではなく、まさに歴史解説本的視点で書かれている。文体は非常に読みやすいが、ホラー史に興味のない人間にとっては、分けの分からない単語が並んでいるだけ、という風になるだろう。

第2部も基本は同じで、ドラキュラやフランケンシュタインについて詳しく解説されているが、その物語のあらすじは断片的に示唆されるだけで、これを読んだからと言って、ドラキュラの物語が体験できるわけではない。つまり、それぞれの話について「知っている」ことが前提なので、この本をホラーの入門書として読むとちょっときついかも知れない。

第3部がおススメ本の紹介で、ここが一番ガイドブック的だ。「サイコ・ホラー」「化け物」「エロチック・ホラー」などジャンル別にそれぞれ3冊程度の代表作が紹介されている。私もキングの作品を除けば殆ど読んだことがない作品ばかりだったが、恐らく絶版になっている可能性も高い歴史的名作が案内されている。どの本も面白そうであり、読んでみたいと思う気にはなる。特にキングと並ぶ巨匠クーンツのファントムはイチ押し作品になっていたので、私も読んでみようと思い(中古だが)注文した。ただ、このパートも初心者向けというよりは玄人向けの趣が強いので、あまり詳しく作品が紹介されているわけではない。

以上、「怖い本の紹介サイト」で「ホラーのガイドブック」を「紹介する文章」という三重入れ子構造になっている少々奇異なレビューになってしまったが、全体的にはホラー好きならそのアカデミックな視点は一読の価値あり、入門書やガイドブックとしては少々読みづらい、という評価だ。欧米のホラー小説に限っているので、もちろん、日本のホラーは全く触れられていない。

ホラーというものが恐怖を楽しむ性格上、どうしてもジャンル的には地位が低く見られがちだが、むしろ人間と根源的に結びついていると暗に述べられているのは面白い。今も昔も安全な場所から俯瞰する恐怖は娯楽として成立しているのだろう。

(きうら)



日本推理作家協会賞受賞作全集(93) ホラー小説大全 (双葉文庫)

-★★★☆☆
-, ,

執筆者:

関連記事

ミスト(フランク・ダラボン監督)~暇なのでゆっくり観てみた

伝説の「胸糞悪い系」映画を再観賞 何といおうか……雰囲気は好きだ クリーチャーデザインは良い おススメ度:★★★☆☆ はっきり言ってしまうと、時間の都合で、今読んでいる本の感想が間に合わない。そのため …

『うんこ文学』(頭木弘樹・編、ちくま文庫)〜「読書メモ(082)」

「読書メモ082」 うんこにまつわる文学作品。 人も動物も必ずする排泄。 オススメ度:★★★☆☆ 【近況】 桜の盛りをすぎる前に、今年も桜の写真をスマホにて撮りました。タンポポも咲いているので、そのタ …

亡者の家 新装版 (福澤 徹三/光文社文庫) 〜結末のネタバレあり・約1000記事突破の話

一昔前の消費者金融の話 業界モノとしても読める オチは賛否両論あるだろう おススメ度:★★★☆☆ 時は2005年付近。消費者金融の金利が年30%近くもあった時代の話。近いようで、もう結構昔の話なのかも …

再読の秋(成城比丘太郎のコラム-06)

「コラム」という名の穴埋め企画(二度目) 過去に読んだ本を再読する 現在再読中の本について おススメ度:★★★☆☆ 【はじめに】 「~の秋」というと、世間ではよく読書の秋とか言われたりしますが、真正の …

あの日読んだドストエフスキーを僕はまだおぼえている(成城のコラムー92)

「コラム092」 ドストエフスキーの新訳を読みました。 ステパンチコヴォ村での会話劇。 オススメ度:★★★☆☆ 【近況】 雪降って、雪積もって、寒いなかウォーキングしました。そして、手が寒い。鍋焼きう …

アーカイブ