- 映画版は少々チープなCGながら良くできたパニック物
- 小説版もほぼ同じ内容。映画版とプロットは同じ。
- 賛否の分かれるラストは? これはどちらを取るかは難しい。
- おススメ度:★★★☆☆
余りにも有名なスティーブン・キングのミスト。フランク・ダラボンが監督した作品で傑作「ショーシャンクの空に」とトム・ハンクスの「グリーン・マイル」も監督している。上記にも書いたが、小説と映画の大まかなプロットは同じ。
(あらすじ)アメリカの田舎町を突然襲う正体不明の霧<ミスト>。人々は身動きが取れなくなり、スーパーマーケットに集まってくる。主人公は幼い息子のいる中年男性のデヴィッド。やがて霧の中から、正体不明の怪物が襲い掛かってくる。穴だらけのスーパーマーケット。侵入してくる不気味な怪物、集まった人々の間に蔓延する不信感など、閉塞的な状況に追い詰められていく人々。やがて、主人公たちはある決断を強いられるのだが……。
このサイトを訪問される方は、すでに映画は鑑賞済みの方も多いだろう。ただ、小説の方は結構マイナー(短編ということもある)で、上記の「闇の展覧会」という小説集に収録されている。私は気になったので両方読んだ。スティーブン・キング自身はダラボンの結末を絶賛したという話になっているが、さてどうだろう。映画と小説の感想を書きながら、最後にネタバレありで結末に触れてみたい。今更感はあるが、ホラーファンとしては一言書きたい気持ち。
映画版。霧のビジュアルは非常に美しい。が、グリーンマイルでも感じたが、CGの出来が今一つのような気がする。結構、グロテスクな怪物が登場するが、公開当時のCG技術があれば、もっとリアルに描けたように思う。異変が起こる>スーパーマーケットに集まる>怪物が襲ってくる、というプロットは、そのまんまゾンビ物のフォーマットで、そういう意味ではスティーブン・キングは先駆者と言える。ホラーというか、スプラッター描写もあるので、ショーシャンクのような感動描写を期待していると、ガチンコのホラー描写に引いてしまうかもしれない。まあ、今時これくらいの血みどろ描写はあちこちで散見するが……。傑作とは言えないが、佳作とはいえるレベルの楽しいB級ホラーといった趣だ。
小説版。上記の映画のあらすじがコンパクトにまとまっていて非常に読みやすい。むしろ、シンプルな小説をよく大作映画にまで膨らませたというべきか。翻訳的にも特に問題もないので、結構、肩透かしを受けるような読書感。あの名高い「ショーシャンクの空に」も、短編(中編)の「刑務所のリタ・ヘイワース」から映画化されているので、その辺の手腕はダラボン監督の手腕と言える。とにかく、途中はほとんど同じなので、気になるなら結末だけ読んでもいいような状態。
では(今更ながら)以下ネタバレで、結末について書きます。未観or未読の方はご注意を。
簡単に言うと、小説版は、結末は曖昧で、霧は晴れたのかどうか分からないまま、主人公たちはスーパーから脱出し、ほのかな希望を漂わせて終わる。対して、映画版は主人公が絶望し、怪物に食われるぐらいなら自決しようと、車に同乗した同行者(息子を含む)を拳銃で撃ち殺し、自分の番になったときに霧が晴れて、怪物が米軍によって退治されているという様子が映るというもの。つまり、息子を殺した直後にそれが無駄死にだと分かる無慈悲な内容だ。小説版は余韻を、映画版は衝撃を取ったと言える。
どちらがいいかは議論の余地があるが、原作を読む人は少ないと思うので、ほとんどの人は上記の血も涙もない結末を目にしているはずだ。私としては、外連味が強いので、絶賛はしたくないが、映画としてのオチとしてはありかなとは思う。好みで言えば、原作の放り出されたような感じの方が好きだ。皆さんはどうだろうか?
この作品も、スティーブン・キングの壮大なダーク・ファンタジー群の一種とみていいと思う。つまり異次元があって、あるきっかけで、そこからモンスターが湧いてくるという物だ。この辺はアメリカ的宗教観、クトゥルフに類似するコズミック・ホラー的世界観なので、キング作品を多数読まないとこのミストも本当の意味では理解できないかもしれない。正直、私も文化の違いを感じるが、この作品に限ってみれば、小難しい背景を探るより、映像の面白さやエンディングの「いいか悪いか」を楽しむのが正しい鑑賞法ではないかと思う。
もう一作の「グリーン・マイル」も痛い描写が満載の映画で、傑作というには何か足りない映画だった。そう考えると「ショーシャンクの空に」は、やはり奇跡的によくできた一作と言えるだろう。映画公開から10年経った2017年の「ミスト」評でした。
(きうら)