- 病院に立て籠もった犯人と医者のサスペンス
- 文章は読みやすい。キャラもわかりやすい
- そこそこ楽しいがもう一捻り欲しい
- おススメ度:★★★☆☆
(あらまし)アルバイトである病院の夜勤についた主人公の外科医・速水秀悟。その病院にピエロの仮面を被った強盗が押し入り、拉致して来た女を拳銃で打つ。その女の治療を速水はさせられるが、やがてこの病院の真の秘密に近づいていく……という筋立て。
最近、変化球が多かったので、初心に帰って怖い本を求めて本屋で買って来た一冊。実はその本屋の店長さんにオススメを聞いてみたのだが、俄かに慌てて「最近、本を読んでなくて……」などと意味不明な供述を始めたので、一番近くにあったこの本の裏の紹介文とオビを読んで選んで買ったのが真相だ。仕方ない。紺屋の白袴ということにしておこう。
本作の長所は適度な距離感で読みやすい文章とテンポの良い展開だ。ホテルなら程よく空調が効いた部屋という感じ。冒頭から簡潔に状況を説明し、ちゃんとフェアに伏線を張りつつ、所々に見せ場を作る。概ね作者の狙い通りのことを読者は感じるだろう。
ただ、余りにサスペンスのお手本通りに組み立ててしまった為に、この手の本になれた読者には、売りであるどんでん返しが透けて見える。その前の病院の真相も早い時点で粗方予想できる。章のタイトルが「最初の犠牲者」はさすがに頂けないと思ったが……。
終盤に向かって、物語の場面は結構複雑に入れ替わるのたが、帰着点がある程度わかる為に少々煩わしい。所々、読者も含めて登場人物をフェイクにかけようとするのだが、それが成功しているとは言えない。この辺が大きな欠点で、思わず分かったから先へ進めよ、と思ってしまった。
全体的には褒めているようには思えないと感じるだろうが、正統派のサスペンスとして成立しているし、私のようなヒネた読者ばかりではないだろうから「少しドキドキする軽いサスペンス」としてはよく出来ていると思う。Amazonの評価は低めだが、そんなに悪くないと思う。
ただ、最後のオチに何とも言えないモヤモヤが残る。多分、ステレオタイプのキャラとして描き過ぎたが由縁に唐突さがある。もう一捻りして、読者の度肝を抜いて欲しかった。このシリーズは趣向を変えた続編があるが、読みたいかどうかと言われれば、言葉を濁してしまう。
あと、やっぱり本屋の店長はどんなジャンルでも一冊くらいはオススメを持っていて欲しいなぁ。
(きうら)