- ますます冴えわたる政宗の知略と武勇
- 強烈なキャラクター造形と確かな人物像
- 次から次へと襲い掛かる試練の連続に目が離せない
- おススメ度:★★★★☆
前回の紹介記事では、このシリーズを読むことになったゲームのことに触れつつ、歴史嫌いの私がいかに本作が面白いかを述べているが、今回は単純に面白かったので、「やはりここはホラーで」という心の中の良心(悪魔?)に抗って、どうしても2巻も紹介したくなった。近年読んだ「読み物」の中では、最も楽しめたと言っても過言ではない第2巻だった。
(あらすじ/転載)政宗を万海上人の生まれかわりとする期待が大きければ大きいほど、その反動もまた大きい。生家と伊達家の滅亡をおそれ、ひそかに政宗殺害を企てる実の母と実の弟の、肉親ゆえにこそ激しく厳しい愛憎の渦巻。だが、この試練を乗りこえなければ人間政宗の成長はなかった。政宗は涙をのんで弟を斬る!
などと、あらすじでは母親との確執を中心に紹介されているが、盛り上がるのはワンシーンのみで、作中でもあっさりと流されている。それよりも、奥羽平定の激しい戦いから何かとちょっかいをかけてくる秀吉との丁々発止のやり取りが、いちいち目が離せないのである。
例えば黒川城を巡る戦いは、政宗の謀略が存分に振るわれ、危険な橋を渡りながら、周囲の敵たちを鮮やかに蹴散らしていく。
七草を一手によせてつむ菜かな
と、いう句を読んでいるほど、歴史に残る快勝劇となるのだが、ここまで読んでも、まだ全体の15%程度にしか過ぎない。そこから始める関白(この2巻では)秀吉との丁々発止の知恵比べが壮絶である。
秀吉の九州攻めに援軍を寄こせと言われた政宗は、すぐにこれを実行に移さない。未だ戦の絶えない時代の話である。しかも、気性の激しい秀吉の厳命を、のらりくらりとかわす。もちろん、政宗なりの戦略があるのだが、これによって、彼は最終的に秀吉に呼びつけられて、直接の審議を受けるのだが、これもまた、政宗流の大胆な思慮で乗り越えていく。まあ、結局は件の黒川城を奪われてしまうのだが、その最後のシーンも粋な仕掛けがある。
と、ここまで読んでもまだ半分なのである。なんという密度だろうかと思う。さらに戦国の登場人物が入り乱れる中にあって、きちんと取捨選択がされており、短い登場シーンであっても十分にキャラクターが明確に描かれていて印象に残る。歴史小説にありがちな「知ってるはずだから、紹介はしないもんね」という場面が少なく、私のような門外漢も純粋に物語を楽しめるようになっている。
後半はさらに政宗を襲う大ピンチについて詳しく述べられているのだが、これを乗り越えていく過程が、並の小説では味わえないダイナミックな「読み物」になっていて、大体のあらすじは知っていても十分楽しめる内容になっている。セリフもいちいち深い。
政宗の前には、主に秀吉を除けば、石田三成と徳川家康が立ちふさがるのだが、その家康が、
「人はみな相身互い、そろばんの立たぬ無理はしてはならぬ。お互いに助け合う気が無ければ戦わなねばならなくなる。下手な戦ほど損のことは無いからの」
などと、人生の真理をさらりと言ってのけたりする。
ホラー小説紹介サイトということと、シリーズものの第2巻ということ、私の思い入れを考慮し、★4としたが、これを楽しまないのは損だと思わせてくれる密度の物語だ。
たしかに歴史小説であるのだが、このジャンルを超えて楽しめる楽しい「読み物」である。歴史に造詣の深い方には鼻で笑われるだろうが、とにかく「面白い本」を求めている方であれば、この2巻は大満足ではないだろうか? ただ、先は長いのも事実である(8巻まである)。
(きうら)