- 12編の「奇妙な物語」。
- ホラー要素もあるが、どこかとらえどころのない話。
- 翻訳ものに向かない人には、あわないかも。
- おススメ度:★★★☆☆
『麻酔』(クリストファー・ファウラー)…歯科治療にきた「サーロウ」は、歯科医を名乗る「マシュウズ」から治療を受ける。その治療はだんだんエスカレートしていく。歯科治療のおそろしさを戯画化したものと思いきや、日常に潜む陥穽をえがく。ラストの「キネティック・アート」の完成は凄惨でおそろしい光景だが、なぜか美しい。志賀直哉の「剃刀」には緊張感があったが、こちらは悪意だけを感じる。
『バラと手袋』(ハーヴィー・ジェイコブズ)…「わたし」は子供時代に「オートバイのおもちゃ」を、友人の「ヒューバーマン」と交換した。大人になってその「オートバイ」を買い戻しに行くのだが…。「わたし」と、収集家である「ヒューバーマン」との旧交をあたためあうはずのやり取りが<奇妙>といえる。物質文明への皮肉といえばありきたりだが、「わたし」のラストの決意は、読みようによってはなんだが怖い。
『お待ち』(キット・リード)…車で観光旅行中の母娘が、ある町に迷い込む。そこでは「奇妙な風習」が隠然と続いていた。母は食虫植物に取り込まれるように、町に染まっていく。最初は抵抗しようとした娘も、最後は町の慣習に従うことになる。
『終りの始まり』(フィリス・アイゼンシュタイン)…死んだはずの母から電話が掛ってくる。母の誘いによって、離れていた兄妹たちが集まり、そこで彼らは母にまつわる苦い思い出をぶつけあう。はじまりは奇妙な感じなのだが…。もし死んだはずの母から連絡が来たら、心の変化はどうなるだろうか。喜ぶのか、怖がるのか。作品ラストの意味を考えてみると、感動ものといえるだろう。死んだ母を結節点としての、兄妹の和解の物語といえる。
ある男が家族とともにハイウェイへと向かい、道路脇に停車する無人車群の仲間入りをする『ハイウェイ漂泊』。これは都市に生きる拠りどころのなさをあらわしたのだろうか。漂泊して存在が漂白していくといったところだろうか。
主婦の「ローズ・エレン」が、不安の塊をあらわすような、二匹の銀色の犬に付きまとわれることによって、夫婦間に口論が起こる『銀の猟犬』。これはこの作品群の中では、あまり感心しなかった。不気味な雰囲気だけを書いている感じがした。
その他いくつかを簡単に紹介します。ある女性から聞いた、短くて切ない話である『心臓』。ある町で女性に魅せられた若者の、奇妙で苦い体験談をえがいた『剣』。人語を解する飼い犬が、飼い主である家族(特に父親)の内情を暴きだし、一家のバランスが崩れるさまをえがいた『イズリントンの犬』。
『夜の夢見の川』(カール・エドワード・ワグナー)…護送車の事故で逃走した女性が、助けを求めて入り込んだ屋敷でみかけた、住人のあやしい習慣と、それからの一切が転倒したかのような真相。最初の不気味でしずかな町並みはなんだったのだろうか。よく分からないところではあるが、印象に残る作品。
そんなに強くは薦めませんが、後味のよくない(オチがよく分からないとか、ブラックユーモアとか、そういうの)話が好きな人には、おススメです。
(成城比丘太郎)