- 実話短編怪談集。メインタイトルは連作
- 堂に入った語り口で安定して読める
- 実話だと思うが、霊現象そのものには「?」
- おススメ度:★★☆☆☆
こういうサイトを運営していると時々読みたくなる実話怪談シリーズ。いわゆる現代版の「ほんとうにあった怖い話」で、小説のような落ちや伏線がない分、感動することもないが、逆に気軽な読書めるし、不条理な展開が却って怖かったりする。本書もそういったあるある系。ポイントは著者が「北野誠のおまえら行くな。」というテレビ番組に出演している本業の怪談収集家であるということ。というわけで、メインタイトルになっている連作よりも、そちらのロケの様子の方が興味深かった。
(あらまし)
メインの連作短編は紹介文を引用するとこんな感じ「千葉の大地主に、人死にの絶えぬとある一族がいた。名を椛根(かばね)という。本家に入った者は必ず死ぬ―偶然とは思えぬ急死の連鎖に人々は恐れをなすが、血と地の財を守り抜くため一族は跡取りを立て続ける。やがて悲劇は分家筋から第三者をも巻き込み、果てのない地獄が始まる…。」これに上記のテレビの同行記事や旅行会社にまつわる怪談などが収録されている。
基本的なプラットフォームは、怖い場所に行く(あるいは禁忌の行動を行う)→呪われて何らかの不幸に陥る→原因が明かされる、という極めて真っ当なパターン。テレビの取材は台湾まで行ったりして、その辺が自称怪談マニアが書いた本とは一線を画している。
のだが、気になったのは、怪談のオチにどことなく悪意を感じること。怪談なので不幸になるのは仕方ないが、例えばこうだ。他愛もない話だが、曰く付きの部屋に泊まった女性四人が、怖い目に合うという話がある。色々あって最終的にそのうち二人はホテルから、謝罪と返金を受けるのだが、それをその二人だけで分けて終わる。四人で割らないのである。
些細なことだが、私は怪談そのものよりもその二人の不用意な悪意に気分が悪くなった。作者的には事実を書いただけかも知れないが、そういう普通の人間のエゴが見え隠れする方が本筋の怪談より不気味だ。
また、テレビの取材では悪霊(?)が黒いモヤとして表現されているのだが、放送では映っていたのだろうか? 映像に記録できるということは何らかの光学現象な訳で、そこにはエネルギーや物理法則ご働いているはず。そういった事にはもちろん言及されないので、いくらテレビという冠があっても物凄く胡散臭い話に思えた。まあ胡散臭い話を買ってきて胡散臭いと言ってれば世話はないのだが。
自殺者の霊も出てくるが日本では年間2〜3万の自殺者がいるわけで、10年なら20万人だ。化けて出るなら何でこんなに目撃例が少ないのか? またメインの怪談の元凶はある騒動の多数の犠牲者とされるが、じゃあ10万人規模で死者が出た東京大空襲の霊はどうなるのか? 東京や大阪の街中で死んだ人も多いはずだが、何となく恣意的な誘導を感じる話が多かった。
だからと言って、敢えて禁忌とされる行為はしてはいけないと思うし、自分の知識に無いからといって、また科学的に証明されて無いからといって、軽々しく怪談スポットなど行かない方がいいだろう。
と言うわけで、プロらしいちゃんとした現代怪談が集められているが、過剰な期待は禁物の一冊。また私のように無粋なツッコミは入れないように読みたい本だ。
(きうら)