- 新築の家と、家族にまつわる恐怖。
- 一人の主婦を襲う怪奇現象。
- たいして怖くはない。
- おススメ度:★★☆☆☆
専業主婦の「規子」が、念願のマイホームを、郊外の新興住宅地に新築し(資金は夫が出したものだが、設計やその他交渉は、すべて規子がやった)、幸せの絶頂に至ると自ら感じるところから、話は始まる。友人より先にマイホームを手に入れた優越感や、これからの新生活に胸を躍らせる規子だが、引っ越し当日から、何やら奇妙な現象に襲われていく……。
奇妙な現象とは、夕方に何かの気配を感じたり、無人の玄関からインターホンが鳴ったりと、まあ、実にそれらしいものからはじまる。その後、一人で在宅する規子のもとで、ポルターガイスト的な怪奇現象が起こったり、何者かの視線を感じたりという規子の妄想的な経験がはじまる。その後、夜中にこちらを見つめる「顔」の夢を見たり、住宅地をうろつく「浮浪者」に、不気味な感覚をおぼえたり、と一見ホラーっぽい味付けがなされる。
規子は、立て続けに起こる怪奇現象に付き合い、それに怯えるうちに、自分と家族(夫・長女・長男)との間に、何かしらの<ひび>のようなものを感じる。家族関係が怪奇現象につながっていると感じるのだ。この家族像というのが、(25年前の作品なので、こういうものが一般的だったのだろうが)やけに定型的で、どこかで読んだような感じ。特に、息子の「忍」が、病弱だった過去があり、繊細で、優しそうで、きれいな顔立ちと、いかにも栗本作品の少年といった人物設定で、読者としては非常に食傷的。
最初はホラー小説に家族ドラマを付け足したものだったのが、ラストが近付くにつれ、(ありきたな)軋轢のある家族ドラマに、ホラー要素が付け足されたものになる。さらに、そのどちらも中途半端になり、最後は、曖昧模糊とした規子の幻想めいた独白が、ひたすら続くのみ。もう、ホラーでも何でもなくなる。一応オチはつくものの、どうといった感想もない。栗本作品によくあるが、最初はおもしろそうなのに、最後は、筆が滑りすぎるのかなんなのか、よく分からない駄作になり下がる、そんな作品群に連なる一冊に仕上がってしまっている。
私は、この作品が出版された時と割と近い時期に、都市部から結構離れた新興住宅地に引っ越したので、規子の気持の一端は分かるつもりなので、よけいに惜しい感じがする。外在的な怪奇現象を描いてもよかったのではないでしょうか。なぜなら、新興住宅地でなくとも、この作品は書けるのではないかとおもうからです。
とはいえ栗本薫には、何かの気配や、「それ」、「あれ」といった、ほのめかしだけで、何らかのホラーを書き上げる筆力はあるので、そういう雰囲気だけを味わう分にはよいと思います。
(成城比丘太郎)