- 安定のシリーズもの怪談集
- 単発怪談+連作怪談
- 思わせぶりな分、少し肩透かし感
- おススメ度:★★★☆☆
この著者の作品は過去にも紹介(拝み屋郷内 花嫁の家拝み屋)している。現役の拝み屋が自分自身の体験から怪談集に仕立てているという「ノンフィクション」感が売りになっている。更に安定した文章で素人の怪談に比べ格段に安心して(?)読めるのも良い。また、最も引きの強いメインシナリオに、単発怪談を混ぜるのも読者を飽きさせない。と、いうわけで6月の新刊だったのでさっそく読んでみた。
(あらすじ)拝み屋である著者の元に同業の女性からある怪異の解決に手を貸して欲しいと依頼を受ける。同業者とは接触をしないことを信条としている著者は露わに不快感を示すが、その以来に徐々に巻き込まれるのであった。それは、紫の服を着た茶髪の女性が商店街に現れるという一見平凡な依頼だったのだが……。このメインシナリオに著者が集めた怪談が話の長短はあるもののけっこうな数が収録されている。
しかし、冒頭に
全てを読めばあるいはあなたの心にも、黒々とした底知れぬ闇が生じるかもしれない。生じた闇が増幅し、変容を来たし、心の内によからぬ影響を与えてしまうかもしれない。
というのは、少々ハードルを上げすぎているような気もする。確かに本作の著者は、仕事に対する鬱屈から半ばアルコール依存症のようになっていて、単発の怪談にも後味の悪いものが多い。ただ、現実にはもっと後味の悪い話がごまんとあるわけで、それらの実話と比べ、特別暗い気持ちになるものはなかった。むしろ、気を配ってエロ・グロ表現は避けているようにも思える。
それにしても、話の中心になるのはタルパ(作中では人間が創造から生み出す架空の人格・実体化したイマジナリーフレンドのように語られている)についての話なのだが、正直、これだけで大落ちまで引っ張るのは少々苦しいと感じた。話としては良く分かるのだが、あまりにそれに偏りすぎると漫画っぽくなってしまい、リアリティを欠いているような気がする。その為、前に読んだ上記の話に比べ、落ちのインパクトが弱いし、それに、ラストが次の話の前振りのようになっているのもどうか。
というのも、この作者の作品は通し番号が無いので、どれから読んでいいのか分からず、しかし、中身としては巻を跨いで連続シナリオになっているのである。拝み屋怪談(1)なり(5)なりと振ってもらえるとありがたいのだが。そのせいで、途中、どうやら私は前巻を飛ばして読んでいることに気が付いた。それでも支障のないようにはできているのだが、何だかスッキリしない。
怖い、怖くないで言えば、普通に読んで十分怖い話もあるし、インパクトのある話もある。ちょっとしたユーモアもあるし、強烈なキャラクターも出てくるなど、この辺は手慣れたもので、よく読者の期待に応えている。水準以上の怪談集であるし、それにキャンペーンシナリオとして連絡短編として読めるところがやはりいい。短編と中編を一度に味わえる、一粒で二度おいしい構成だ。
それにしても、霊がいることが当たり前になっているが、まあ、それはどうでしょう。確かに、幽霊は見える人はいるし、呪いはあるし効くと思うけど、物理的存在としての幽霊(亡霊?)というのはまた、別物だと思うのが、著者と主張が違うところ。ここがイマイチ乗り切れない要因かもしれない。人間の想念がエネルギー源だと解釈できるのだが、所詮は微弱な電流、蓄電要素のないところに、幽霊が実体化できるような多大なエネルギーになるのだろうか。
などと、冷めたことを言わずに、単純にお話として、楽しむのが良いと思う。ちなみに、幽霊を信じている人は、けっこう「来る」と思うので、そういう意味では、冒頭の著者の警告は必要かもしれない。この本が「効く」かどうかは、ぜひ、ご自身でご判断を。私も責任は持てないが……。
(きうら)