- 恋愛と老いと友情をテーマに
- かなり重い過去を背負った人々
- 現在(2010年代)と過去(20世紀のこと)を交互に描く
- おススメ度:★★★☆☆
本作は、イサベル・アジェンデが72歳の時に書いたもの。現代版『<a target=”_blank” href=”https://www.amazon.co.jp/gp/product/410209704X/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=410209704X&linkCode=as2&tag=scary22-22&linkId=38dd0e63b4d1f0170135b546eccf871b”>嵐が丘 (Ama)</a><img src=”//ir-jp.amazon-adsystem.com/e/ir?t=scary22-22&l=am2&o=9&a=410209704X” width=”1″ height=”1″ border=”0″ alt=”” style=”border:none !important; margin:0px !important;” />』とでもいうべき作品とのこと。『嵐が丘』はだいぶ前に読んだので、その内容はほとんど忘れてしまった。正直にいうと読了後の衝撃(?)は本家『嵐が丘』のほうが強かったような気がする(読んだのは若い時だし)。まあ、でも本書もそれなりに衝撃的な事実が散りばめられていて読者を飽きさせないような工夫もなされている。個人的には、ワールドカップ観戦の合間に読む分には非常に手頃な小説だった。
物語はイリーナが、「ラークハウス」という老人ホーム的な施設(保養施設)に勤めだしたところから始まる。そこでイリーナはアルマという入居者の世話(手伝い)をすることになる。このアルマが登場してから、物語には、アルマが少女の頃にポーランドからアメリカへと渡ってきて、そこでイチメイ・フクダという日系人の少年と運命的な出会いを果たすことになるという過去の光景がはさみ込まれる。このイチメイこそアルマにとって「生涯の愛」の相手となるものだった。
普通に読んでいくと、アルマという老域に入った女性の、現在までに続く恋愛ストーリーかと思われるかもしれないが、話はそう単純ではない。このアルマ自身はポーランド生まれのユダヤ系アメリカ人である。彼女は少女の頃に家族を置いてアメリカの親戚のもとへと移る。彼女が去ったポーランドにはヒトラーの手が伸びようとしていて、彼女の思春期という光景の中に、ヨーロッパの不穏な情勢がさしはさまれる。アルマと祖国(家族)とが切り離されるのだ。これがアルマの人生での関係断絶の第一弾といったところか。その次に彼女から切り離されるものは、イチメイとの関係である。日本との戦争において、イチメイを含む日系人はアメリカの収容所送りとなる。その後、イチメイと再会するアルマだったが、彼との関係が深まるにつれ彼女は別れを決断せざるを得なくなる。この時別れた理由(社会階級の差といった外面を意識したもの)を教訓に(?)、アルマは後に自らの孫であるセツとイリーナ(という移民という身分の女性)の仲を後押ししようとする。
この物語は何人ものアメリカへの移民者をもとにした話でもある。イリーナもモルドバ出身で、彼女も非常に大きなトラウマを抱えていることが判明する。読み始めたときにはなぜか彼女が控えめであまり目立とうとしない性格のように思えたのかは、すべてはこの過去に起きたことのせいだと分かった。
また、アルマの夫となるナタニエルにもある秘密があり、そのことが原因でアルマはナタニエルとの早い別れを経験することになる。だが、その裏ではイチメイとの再びのつながりがアルマに訪れるわけだが。
そして、とうとうアルマ自身にもこの世からの別れが迫るわけだが、後半のその様子はなかなか感動できるものになっている。
全体としては、恋愛(やその他の要素)を軸にした読みやすい小説といった印象。しかし、個人的には詰め込みすぎの感もある。後半に入って、次から次に様々な真相を描きだすのには、少し気詰まりを感じた。というかどこかわざとらしさすら感じるし、よく出来すぎた小説のようにも感じた(私がひねくれ者のため)。
それからイチメイという名について。この名は、彼の父であるタカオがきょうだいの中でひとりだけ日本人らしいものをつけたとあるが、しかしこのような名は漫画やアニメくらいでしか目にしなさそうな名だ。名付けの理由からすると漢字では「一命」と書くのだろう。うーん、どうなんだろう。このような名は見たことがないな。それにしても、このイチメイという人物は、「一命を賭して」何かを成し遂げようとするかのような求道者めいた雰囲気があるように描かれてるのは、なんだかなぁといった感じ。
その他にも、日本(人)の風習・習慣と思われるものについて首を傾げることもあったが、しかしまあそれらは個人的には面白く読めたのでいいか。
(成城比丘太郎)