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★★★☆☆

椎名誠 超常小説ベストセレクション (椎名誠/角川文庫) ~全体の紹介と感想

投稿日:2017年8月3日 更新日:

  • 椎名誠のもう一つの顔である異常小説作家としての短編集
  • SF、ファンタジー、ホラー、不条理の要素をごちゃまぜにした不思議な作風
  • 落ちが投げっぱなしの場合もあるが、それがまた味。広くは薦めない。
  • おススメ度:★★★☆☆

超常小説とはなんであるか? と、言う疑問があると思う。本書の解説では、本人の言葉として以下のように語られている。

各作品は通常だとサイエンス・フィクションやファンタジーなどに区分されるジャンル、と見るむきもあるでしょうが、かならずしも既成のそういう枠に入りきらない、かなり風変わりな読む人にとっては不可思議世界のヘンな話、とうつるかもしれません。「異端小説」という言い方もアリだと思います。

まさしくその通りの内容で、SF要素やファンタジー要素が強いものもあるが、どちらかというと「トンデモ」小説と言った方がよいだろう。私は著者の本をかなり読んでいるので、ある程度オチも納得できるが、普通の人は「えっ、これで終わり!?」という人も多いと思う。お話の構成を楽しむというより、その異端な雰囲気を楽しむのが本来の姿勢だろう。と、いうわけで総合的なおススメ度は高くないが、ハマる人には★が5つでもいいはずだ。以下、珍しく、全部の短編の概略と個別の★を紹介してみたい。

・いそしぎ(★★★★☆)とある日本っぽい世界で、主人公の妻が政府から要請されて「取り上げられる」というあらすじ。取り上げられた妻はどうやら無事ではないらしいが、基本的には「祝い事」として処理される。ラスト付近の主人公の気持ちを考えるとかなり切ない展開だ。この異常なお見送りのディティールが楽しい。

・雨がやんだら(★★★★★)雨が降りやまなくなった世界の終わりと、少女の日記形式で綴るかなり哀しいお話。ラスト付近の描写が素晴らしい。ちなみにこれをもとに傑作長編SF「水域」(過去記事)が書かれたのは有名な話。

・蚊(★★★☆☆)一人暮らしの男の部屋に蚊の大群がやって来るというかなり限定的な設定の小説。ヒッチコックの「鳥」を蚊に置き換えた感じか。これは著者の体験をもとに書かれている(「わしらは怪しい探検隊」で蚊の大群に遭遇する)。面白いが少々強引。

・胃袋を買いに。(★★★☆☆)完全なSF。クローン社会における妙にリアルな悲哀を描く。SFとはいえ、椎名誠らしい生活感のある描写で、どちらかというと気持ち悪い読後感がある。やや類型的。

・ニワトリ(★★☆☆☆)目が覚めるとガムテープで拘束されているというこれもワンシチュエーションの傾向が強い作品。かなりイラダタシゲな描写が続くので読むのが少々つらい。落ちも良く分からない。確かに超常小説っぽい。

・ねじのかいてん(★★★★☆)ある施設に閉じ込めらた男の脱出計画を描くサイコ・スリラーとでも言える傑作。ラストの展開がかなり怖い。果たしてどちらが正しいのか。珍しくミステリ要素があるので、退屈せずに読める傑作。

・猫舐祭(★★★☆☆)ある未来の祭りを語る謎の男。一応ラストで、大落ちがつくが、これもそこまでの過程を楽しむもの。ディストピアにおける見世物小屋はどうなっているのであるか? というテーマを鋭く追及している。

・スキヤキ(★★★★☆)これは怖い。週末の世界に生きる少々異常な主婦とかなり異常な「ご近所」の様子を描く。戦争から帰ってくる夫のために、スキヤキの材料を買いに行くという話だが、ディティールがSFホラーになっていて想像するとゾッとする。結末も秀逸。一種のループものともいえる。

・中国の鳥人(★★★☆☆)これはファンタジー。中国の奥地で空を飛べる一族から飛行訓練を受ける主人公の話。本木雅弘主演で映画化もされており、この作品集では最もメジャーかもしれない。ただ、落ちが少々弱い。もっと先が読みたい。

・みるなの木、赤原のむし、海月狩り、混沌商売(★★★★☆)この4篇は、代表作「武装島田倉庫」の世界に接続する派生作品のようなもの。似た名前のキャラクターが登場するが、必ずしも「武装島田倉庫」と同じキャラクターではない。基本的にはディストピア的未来の冒険譚で、楽しく読める。怪しげなキャラクターの怪しげな仕事ぶりが面白い。派生作ということなので、元の作品を読めばさらに楽しめる。

・ねずみ(★★★☆☆)気の弱いヤクザの運び屋の男が飛行機で、追っ手に見つかって逃げ込んだ先は……。そんな馬鹿なという展開をする一種のファンタジー。妙に明るい作風で、どちらかというと陰鬱な結末が多いこの短編集では異色作だろう。

・抱貝(★★★☆☆)これも良く分からないが、不気味な味わいのある不思議な小説。セールスマンが田舎の居酒屋で酒を飲むだけだが、なんだか薄気味悪い。落ちも良くわかないが、これはこういうものとして読む小説だ。

・漂着者(★★★★☆)いわゆる無人島の漂着ものだが、「意志のある島」と格闘する主人公。上記の「水域」にも通じるが、もっと息苦しい展開が待っている。島での自炊生活などに豊富な経験がある作者だからこそ出せるリアリティのある描写は必見。

・飛ぶ男(★★☆☆☆)これは完全にギャグ小説寄りの内容。プロレスラーの嫁と喧嘩した男は、家の屋根の上に「閉じ込め」られる。どうやって脱出するかが焦点になるが、かなりトンデモない結末に。これはもう笑うしかない。少々企画倒れか。

・ぐじ(★★★★☆)私小説風だが、かなり嫌な落ちがつく。しかも、落ちがはっきり説明されないのでモヤモヤするがそれが狙いだろう。途中までは「椎名誠が温泉宿に泊まって女将とねんごろになる」という話だが、これは読んでのお楽しみ。しかし、ラストで示唆される「ぐじ」は何らかのメタファーなのだ。心理的に後に残る作品だ。

・問題食堂(★★★★☆)これぞ超常小説。同じシチュエーションを飛躍する設定で何度も追体験する超不思議なループものの体を為している。他の小説が比較的まともに見えるほど、これだけぶっ飛び具合が半端ない。ラストに持ってきたのも分かる気がする力作だ。ただ、小説としてはそこまで面白くないので、まさに「異常を楽しむ」小説。

元々は何冊もの短編集に収録されていたものを一つにまとめたものなので、どの作品もそれなりに楽しめる。個人的には「雨がやんだら」「スキヤキ」「ねじのかいてん」「漂着者」「ぐじ」を推薦したい。どれも作風は違うが面白さは保証できる。その他の小説は、評価を見ながらパラパラ読んで貰えればいいのではないだろうか? 以上、少々長くなったが椎名誠の短編集の紹介でした。

(きうら)



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