3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★★★☆

淫売婦・死屍(しかばね)を食う男(葉山嘉樹/ゴマブックス) ~あらましと感想、軽いネタバレ

投稿日:


  • 幻想とホラーの混じった短編。
  • 少し作り物めいているが、妙に後に残る。
  • 夏の夜のお供にどうぞ。
  • おススメ度:★★★★☆

『淫売婦』は、ある男の体験談。事実なのか幻想なのか分からないという、なんだか覚束ない口上からはじまります。男は半年の航路から帰ってきたところです。「横浜」であやしい三人組に、五十銭の「見料」で何かを見せようと声をかけられ、半ば強制的に引っ張られます(もしかしたら男の方に何か期待があったのでは、とも言えます)。連れて行かれた先は、あやしい一画にある部屋です。自分の身体が「六神丸」という漢方薬の材料にされるのではないか、という妄想にとれわれ、男は恐れを抱きます。そこで彼が見たものとは……。

その場所には悪夢のような光景が広がっていた、というのが読み始めの印象です。ひどい悪臭を放つ若い女性が寝転がっている様は、搾取されつくしたものの末路を比喩的に表したものという印象です。「あらゆる人生の惨苦と戦って来た一人の女性が、労働力の最後の残渣まで売り尽くして、愈々(いよいよ)最後に売るべからざる貞操まで売って食いつないで来たのだろう。」という説明くさい男の感想がそれをあらわしています。

男がひどい状態の女性に性的興奮を覚えることは間違っているのでは、と耐えているシーンが少し滑稽です。ここで欲情することは、金銭で身体を買うということになる、つまり資本主義のくびきにからめとられ、それに屈することになってしまうとでも思っているのでしょうか。

最初はおそろしい話のようですが、ラストは出来すぎの感動ものになってしまった感じです。

『死屍(しかばね)を食う男』は、「見たため、聞いたために命を落とす人が多くある。」話を書くという出だしで始まり、なんだか物騒な感じです。怪談か何かがはじまりそうな雰囲気です。話の内容は単純です。中学生の「安岡」が、寄宿舎で同室になった「深谷」の奇怪な行動を追跡して、「安岡」がその先に見たものとは……。この話は完全にホラーで、夏の夜に一人きりの部屋で読むと怖さが増すでしょう。ただ残念なことに、この話も少し出来すぎのような感があります。

(成城比丘太郎)

(編者追記)一応有料の本にリンクは貼っていますが、青空文庫で読めますので、そちらで試してみても全然大丈夫です。なんというか、趣味性の高いサイトなのです。



(三省堂)

-★★★★☆
-, , ,

執筆者:

関連記事

献灯使(多和田葉子/講談社)

読後感に何も残らない。 ディストピア風だが、ちゃちな感じしかしない。 なぜこんなものを著したのだろうか。 おススメ度:★★☆☆☆ (あらすじ)何らかの「災厄」に見舞われた後、鎖国状態の日本で、死を奪わ …

江戸病草紙(立川昭二/ちくま学芸文庫)~読書メモ(50)

読書メモ(050) 「近世の病気と医療」 病が江戸の人々の暮らしに何をもたらしたのか 個人的おもしろさ:★★★★☆ 【江戸の人々の暮らし本を読む】 最近、『江戸入門』(山本博文〔監修〕、河出書房新社) …

ゴールデンボーイ―恐怖の四季 春夏編 (スティーブン・キング/新潮文庫)

「ショーシャンクの空に」の原作「刑務所のリタ・ヘイワース」を含む中編2本を収録 映画の追体験に最適。ただし、ラストのニュアンスが微妙に違う もう一本の「ゴールデンボーイ」は割と地味なナチスものサスペン …

みちびき地蔵(まんが日本昔ばなしより)~話の全容(ネタバレ)と感想

親子が体験する津波の恐怖 死の前日に祈りにくるという地蔵の前に無数の亡霊が…… 静かに、深く、恐ろしい おススメ度:★★★★☆ はじめに 令和早々に扱うに相応しい明るい話も考えてみたのだが、そもそも「 …

千と千尋の神隠し(宮崎駿/スタジオジブリ) ~あらすじと軽いネタバレと怖さの構造

いわずと知れた摩訶不思議な和風ファンタジーの傑作 ホラー要素満載で悪意しか感じない展開 しかし「超」天才の限界を感じる作品 おススメ度:★★★★✩ 「君の名は」や「アナ雪」や「タイタニック」を足蹴にす …

アーカイブ