- 京極夏彦好きのためだけの小節
- それなりに面白いがオチはない
- 壮大なサーガの一部
- おススメ度:★★☆☆☆
前回、同作者の「ヒトでなし: 金剛界の章 (京極夏彦/新潮文庫)」を読んだ後、何となく、まだ読み足りなくて検索したら出てきたのがこの本。この本は表題通り「鬼童」「青鷺火」「墓の火」「青女房」の4つの短編で構成されているが、なんと「鬼童」は「ヒトでなし」の話なのである。そのあまりにスムーズな移行ぶりに、正直びっくりしたが、こちらの方が先なので、これに着想を得て膨らませたのが「ヒトでなし: 金剛界の章」だろう。
どちらにしても、これは百鬼夜行シリーズと呼ばれる「姑獲鳥の夏」~「陰摩羅鬼の傷」までの長編怪奇小説に付随する、外伝シリーズの一種である。しかも、このシリーズは本編のメインキャラクターがほとんど登場せず、いち脇役のその後(その前)のエピソードが語られるという、どうしようもなくマニアックなシリーズなのである。
そういう理由なので、この本だけを手に取っても、いったい何のことやらわからないと思う。シリーズ既読者も続編が出なくなって久しいので、どこの誰だか分からない状態で読む、という状況がほとんどだろう。つまり、本編の外伝でありながら、ほとんど、独立した短編怪奇小説として読まれるという、奇妙な位置づけである。
母親が死んでも心が動かない「ヒトでなし」の心理状態を描く「鬼童」、人は死んだら鳥になるのかという哲学的・神学的会話が中心の「青鷺火」、父親の怪死の謎を追う中年の男のオチのない物語「墓の火」、復員する箱づくり職人の心理状態の揺れを描く「青女房」の4つから構成されている。
だいたいのシリーズを把握している私も、それぞれがどれに対応するのかは分からなかった。そもそも、脇役のストーリーがいきなり語り始められても困る。困るというより興味の持ちようがない。しかし、そこは筆力が売りの京極夏彦。何となく楽しく読めてしまうのが、悔しい。
ほとんどは一人称で、死や忘却、悲しみや苦しみ、宗教や哲学について滔々と語られることになる。これを面白いと思えるかどうか。少なくとも、「姑獲鳥の夏」「魍魎の函」「狂骨の夢」あたりを読んでから出ないと面白くないだろう。できれば、既刊の長編は全て読んでいてほしい(しかも忘れていないのがベスト)。私も少しは読み直した。
等という非常にニッチな層に向けて書かれた作品なので、正直、面白いも下らないもない。
例えば、自分の好きな小説(あるいはアニメ、ゲーム)があるとするでしょう。その作品の、外伝が発売されたとする。それは非常にマイナーである。しかし、作品そのものの出来は別に悪くない。この場合、この本を読むのは本編の熱烈なファンである。それ以外のファンが読んでも、まず、設定が理解できない。本編が好き>続編に興味がある>何でも知りたい>時間的余裕がある、などの条件が必要だ。
などなど、激しいハードルをクリアできる方なら、そこそこ面白い小説である。いつもの京極夏彦ワールドに「浸っていたい」という人にはぴったりだ。京極夏彦は、エロ・グロ・耽美・ペダンチックな趣味があるので、そういうのが好きな人にはおススメ。
とくに「鬼童」の乾いた「人でなし」ぶり、「青女房」の色々と想像させてくれる破綻ぶりなど、いずれ劣らぬダメ人間の独白は、一種の快感でもある。こういう本が出版され続けていることは素晴らしいと思う。
とはいえ、結論的には、一般的にはまったくお勧めできないということだ。
うーむ、年の瀬も迫ってまたマニアックな紹介になってしまった。
(きうら)