- タイトル通りの大量殺人(?)の謎を追う
- 猟奇趣味全開の完全なる現代ホラー
- 一読は面白いが、すごく惜しい。
- おススメ度:★★★☆☆
あんまりと言えばあんまりなタイトルだが、中身もそのまんまである。物語的には出し惜しみのないスピーディな展開で、途中までは「傑作かも」と思ったほど。「黒い家」で始まった本サイトの趣旨に非常に合致した一冊でもある。ラノベ的要素も無く、実に読みやすいのも素晴らしい。
(あらすじ)北原奈保子は新任の高校教師。彼女が担任する二年C組は、一見問題がなさそうに見えたが、その裏では壮絶ないじめが展開されていた。そのいじめの対象となった少女は宮田知江。彼女はある時を境に、恐ろしい目つきに変わった。そして、事件が起きる。怪しいLINEの通知が奈保子に送られてきた後、24人の生徒が惨死する。犯人は? 動機は? そしてその方法とは?
上記のように物語の「起」に当たる部分が、24名の生徒の死である。その凄惨な様子は、なかなか力が入っていて、文章なら読めるが映像化されたら正視に堪えないような状況だ。のっけから変な駆け引きなしに、衝撃的なシーンを持ってきて、そこからその真相を探っていくスタイルである。その後のテンポも悪くなく、次々と現れる新しいシーンもショッキングなものが多い。
が、最後まで読むと、最初のワクワク感が消え、何となく釈然としないものが残る。原因は二つあると思う。
- 話のオチがそのまんま。というか、説得力がない。
- 物語の焦点がフワフワしていて、何を訴えたかったのかが分からない。
ある程度、楽しく読めることは間違いないので、ここまで読んで興味を持った方はご一読を。以下にさらに詳細に突っ込みを入れてみたいと思うが、必然的にネタバレを含んでしまうので、読む予定のない方(あるいは落ちを気にしない方)は続きをご覧ください。
以下ネタバレあり。
1.話のオチというか、24人の生徒が殺しあった原因として語られるのは「全ての人間の中には凶悪な暴力が潜在していて」、ある目(邪眼のようなもの)を持った人間に「見られるとその暴力が顕在化して殺人か自殺を行う」というもの。確かに人間の目は「言葉ほどもものを言う」というくらい重要な器官であるが、見られただけで殺人まで行うだろうか? と、素朴に思った。作中では催眠術にも触れ「人間には理性があるので、催眠術をかけても自殺まではしない」と述べられている。同じ理屈で言うと、目で見られただけで、殺人まで行うだろうか?
まだある。24人の生徒が殺しあった(自殺も含む)ということは、24人がその「邪眼」の餌食になっているはずだが、そんなに一度に影響を与えられるものだろうか? 目を見て発狂するということは何らかの光学現象を通して、そういう行為に作用すると思うが、仮に邪眼があってもゴーゴンではあるまいし、見た瞬間に発狂するのだろうか? 同じように映像を見ただけで死ぬという「リング」は、網膜を通して感染するウイルスというエスケープがあったが、本作にはそういう解釈もなく、ただただ「そういう人」がいることになっている。超常現象に振らなかったのは良いのだが、やはり納得できない。
2.については、作中の重要な人物として、教師の奈保子、いじめられた宮田知江、そして、刑事の野々村がいるのだが、彼らのどれにもあまり感情移入できず、奈保子に至っては何となく白々しい感じすらする。たぶんステレオタイプな真面目な教師の枠を超えてこないからだと思う。また、野々村は証拠隠滅を計ったりするのだが、その辺も現実では絶対にありえないと思える。総じて警察側の描写のリアリティが薄く、警察もこんなに間抜けではないと思わざるを得ない。人間の潜在的な暴力性というテーマは分かるが、それなら奈保子が発狂すべきではないかと思う。変にヒューマニズムを感じる描写があるので、余計に釈然としない感じがした。
以上の理由で、描写そのものは面白いが、芯に来るものがないので、小説が軽くなってしまった。「黒い家」などは、最後に読者である自分自身に恐怖が降りかかってくる点が秀逸だが、この小説は、終始「邪眼」で押し通した結果、そういう怖さが無かった。
なお、テーマの一つに近親相姦が出て来るのでご注意を。他にも殺人描写はかなりグロテスクであるし、読んで気分のいいものではないので、そういう小説に耐性のある方なら、ちょっと読んでみてもいいかな、と思える一冊。
全然関係ないが、Amazonの紹介文に「イチゴミルク好きという著者が描く、一通のメールから始まる死の連鎖」と、書いてあるのだが、イチゴミルクは必要なのか? うーむ。世の中、不思議なことが多い。
(きうら)