- 一極集中東京の暗い未来?
- 自治体破綻に見舞われた「夕張」の現状。
- 島根県雲南市での自治組織の取り組みとは。
- おススメ度:★★★☆☆
最近こういった日本の(否定的な)暗い未来を取り上げた書籍やテレビ番組などをよく見かけます。以前取り上げた『未来の年表』も(大雑把な)未来日本の予想見取り図でした。その多くはだいたい最悪のシナリオを描いたものです。この本は、2016年にNHKで放送されたものをもとにしています。その放送を見ていないのでわかりませんが、かなりの反響があったようです。
さて、まず取り上げられているのは、東京都豊島区のことです。豊島区が2014年に「消滅可能性都市」のリストにあがったことが衝撃を持ってうけとめられたとのことです。なぜ東京が、と思われますが、その原因に単身者の増加などがあげられます。その結果起こる単身高齢者の問題なども大都市圏である東京では特に目立ったものになるでしょう。これは、地方民からしたら、だからどうしたと言われるかもしれませんが、ここには日本の抱える近未来の姿があらわれています。しかし、東京はまだ色々と魅力ある都市であるし、どうとでも対策はとれるのではないでしょうか(東京には最近行っていないので知りませんが)。「エピローグ」で書かれた東京郊外の危機については「ふ~ん」という感想しかないですね。これらの問題は、都市政策であるとともに別の問題(人口政策など)もあるでしょう。そういった意味では大都会と地方では差がないですが(一応)。だいいち都市部への転入者にその土地への定着を求めるのは難しいでしょうね(私の住んでいる地域が今まさに、超小型の東京近郊問題を抱えていますし)。
東京都の問題がかわいくみえてしまうのが北海道夕張市の現況です。危機として語られたものが、夕張では既に訪れています。「全国で唯一の財政再生団体」となった夕張市のことは(個人的な理由からその名前には以前より親近感を持っていました)、報道などもなされているので周知のとおりでしょう。本書を読んでいただいたら分かりますが、市民生活を含めてあらゆる不便におそわれていて、とても日本国内のこととは思われないことでしょう。もちろん、ここまでに至った原因は人災のようなものに近いのですが、決して他人事ではすまされないものがあります。自治体の規模はどうあれ、夕張のように住民サービスが満足に送られなくなる財政的な危機は、冗談でなく近い未来に予想される地域もあるのですから。ところで、東京都職員を辞めて2011年に新しく市長の任に就いた鈴木氏の、市長に立候補した理由をこの本ではじめて知りました。
「縮小ニッポンの未来図を映しだす島根県」という不名誉(?)見出しを(編集部?に)つけられた島根県は、確かに人口減少の先端をいっているのだろうし、高齢化率も全国平均を大きく上回っています。ここに取り上げられた雲南市の取り組みは、市内を30の地区に分けて「地域自主組織」を立ち上げて、(ある程度の)地域自治を進めるというものです。まあこれは、市町村合併して広くなった地域を十分にカバーできなくなったからでしょうか。人口の「自然減」がどういったことを引き起こすのかは、島根県の実情を見ることによって分かります。島根県に住む親戚筋の話では、いま島根県で生活できている県民の多くは余裕がある人なのだそうです。まあ、それの真偽は措いておいて、ここに書かれた住民自治組織の立ち上げは、実際にある(自治体消滅の)危機を住民が実感するのには役立っているようです。縮小ということでいうと、集落の集約化が求められるようになります。島根県は知っている人もいるかと思いますが、山間部はまあまあの積雪があります。夕張市の「政策空家」ではないですが、過疎問題も含めて、雪への対策でもそういった集約化も現実的になるでしょうか。
(都内の)再整備を含めた東京オリンピック需要の行きつく先はわかりませんが、本書に書かれたある程度の「撤退戦」は必死でしょうねぇ。とはいえ、「エピローグ」で地方と東京の差は「撤退戦」に関してはないと書かれていますが、いやそれはあるでしょうとだけは思いますが。余談ですが、この9月まで半年間視聴していたTVアニメ『サクラクエスト』では、「間野山」という(おそらく富山県にある)架空の田舎を舞台にして、5人の女性が町おこしに奮闘する姿が描かれていました。結局物語はその5人の成長模様がメインで、田舎の人口減の切実さによる不安などが否定的なものとして取り上げられることはありませんでした。さびれた商店街や、山間部集落への定期バス廃止などが取り上げられていましたが、そのような事はある程度の地方都市(人口5~10万程度)でもすでに起こっていることですし。まあ、あまり作品には期待していなかったのでどうでもいいですが。
(成城比丘太郎)