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創作

許さないからね

投稿日:2020年3月23日 更新日:

  • 創作怪談
  • 短い
  • 来週はなんとかホラーの感想を!
  • おススメ度:特になし

「薬はきちんと飲んでます?」
「もちろんです」
私はズキズキと痛む親指を見ながら不満げに答えた。爪の横に出来た1センチ程度の傷が化膿している。私立総合病院の若い外科医は疲れた顔で、私の指を見ている。
「どこで切ったか覚えがない?」
「は、はい」
嘘だ。あの時からだ。しかし、私の話を医者が信じるわけがない。

3ヶ月前、知らない番号から着信があった。普段は絶対に出ないのだが、あんまりしつこいので、興味本位で通話ボタンを押したら、父親だった。ただし私が2歳の時に母は離婚したので顔さえ知らない男。だから最初から不吉な予感がした。
私は話したくなかったが、一方的に生まれた時間や耳のホクロの位置、死んだ母の好きだった歌詞までまくし立てられ、少し興味が湧いた。
父親。
そんなものは存在しなかった。だから、会ってみる気になった。

指定されたのも田舎の病院だった。北病棟の612号室。ガン病棟だ。
私がに会いに行くと、やせ細った見知らぬ老人がいた。
その見知らぬ老人は、自分が今は独り身で末期癌であることを述べ、その上でどうしても頼みたいことがあると告げた。
「お前にしか頼めないんだ」
お前と呼ばれるような間柄ではないので、不快ではあったが話は聞いた。それは簡単に言えば、郷里の墓の管理を代わって欲しいと言う頼みだった。
もちろんすぐに断った。
しかし、私が見たこともない金額の通帳と、それを私に譲る遺言状を見せられた。
契約社員として働く私は38歳で独身。5年付き合った男には去年振られた。
心が動かなかったと言えば、嘘になる。

その1ヶ月後、頼まれた最初の墓参りは父の葬儀になった。
しかし、何もかもが最悪だった。まず、父の遺体は顔以外目も当てられないほど傷だらけだった。まるで寄ってたかって刃物で切り付けられたようだった。新しい傷、古い傷、無数の傷、傷、傷……私は吐き気を覚えた。

葬儀は父の手配した業者が滞りなくやってくれたが、出席者は喪主の私一人だった。お骨を納めに行くと、会う人全てに無視された。そして、その広い墓場は滅茶苦茶に壊されていた。そんな所にポツリと新しい墓が増えた。
暗くて陰気な場所だった。

程なくして、正体不明のメールが届いた。ちゃんと私宛のショートメールになっている。
なぜわかった?
そこには、私を絶望させる短いメッセージが続いていた。
父にはちゃんと子供がいること。
遺言状が何の法的効力を持たないこと。
そして、父が人を殺めた犯罪者だったこと。
あとは意味不明な罵詈雑言。
「痛っ」
その時だったのだ。私の親指に傷があるのを知ったのは。
パックリと開いた傷からは赤い肉が見えた。

私は誰だ。父は誰だ。私を嘲っているいるのは誰だ。
私は狂ったようにネットで調べ始めた。
遺産はやはり偽物だった。弁護士という男は詐欺師だったのだろう。あんなに簡単に信じた私が愚かだった。
父の罪はやはり事実だった。4人の若者を殺して、つい最近恩赦で出所したばかりだった。
そして、もう一つ分かったことがある。
あの村で原因不明で多くの人が死んでいた。古い記憶ばかりだが、戦前、戦後に10何人も死んでいる。そして、その犯人はどうやら父の父や祖父のようだった。

故郷の荒れた墓、人殺しの家系……。

なぜ、私に葬儀をさせたのか?
その見当はついている。私は身代わりなのだ。
父のもう一人の子供の代わりにあの村に積もり積もった憎悪を相続した。いや、させられた。信じられないほどの怒りで、私は頭が真っ白になった。

だから今は仕事もやめて探し回っている。
あのメールの送り主は間違いなく私の異母兄弟だ。
痛む指でスマホの地図を見る。この辺りだ。
(殺してやる)
そう思った時、スマホをいじっている私の人差し指の横腹にすうっと新しい傷が開いた。
(ゆるさないからね)
そうか、だから父の体は傷だらけだったのか。

(了/きうら)


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