- 壮大な宇宙戦争をタクティカルに描く著者の代表作
- 多数のキャラクターが縦横無尽に活躍する
- ヘビーライトノベルとでも言うべき重厚さと読みやすさと少年の心をくすぐる設定
- おススメ度:★★★★☆
時々、無性に食べたくなるものがある。私の場合、天下一品のラーメンのこってり(全国的に通じるか?)が食べたくなる。これを食べると、しばらく身動きができなくなるほど満腹になるのだが、要するに本にも同じように、時折無性に読み返したくなる本というものもある。この「銀河英雄伝説」通称「銀英伝」もその一つである。
もはや説明はいるまい……と、思うのだが、初版が1982年になっている(TOKUMA NOVELS版)ということは2018年現在36年も前の小説ということになる。うーむ。油断しているとすぐにこうだ。大学で学友と熱く語り合ったのが、もう既に20年前ということにもなる。
ごく簡潔に概要を述べれば、架空の未来、帝国軍の天才将校ラインハルトと自由惑星同盟のヤン・ウェンリーが、様々な戦いを巡って丁々発止の宇宙艦隊戦争を繰り広げるのが縦軸、横軸には人権問題や暗殺事件、ちょっとした軽いジョークや恋愛模様など様々な要素が盛り込まれている。特筆すべきは、上記二人のキャラクターを始め、膨大な登場人物が作中に登場するのだが、誰をとっても人物造形が確かであり、キャラが立っている。必然的に、読者は誰かのキャラクターに入れ込むことになり、キャラクター小説としても一級品の出来栄えになっている。
一巻では、まだ、若きラインハルトとヤン・ウェンリーがあいさつ程度の戦い(アスターテ会戦)を経て第13艦隊の指揮官に就任する。そして様々な思惑が絡み合い……という、これから10巻に渡って続くスペース・オペラの幕開けである。ここでいちいちあらすじを紹介するのも無粋だというものだ。
文章はやや固めなので、小学生が読むには早すぎるかも知れないが、中学生の2、3年から高校生~大学生くらいがジャストフィットする小説だろうと思う。要所要所で発生する戦闘シーンは決して飽きさせないし、著者をして「皆殺しの田中」と恐れられたというそのストーリーの大胆な語りっぷりは読者をひきつけずにはおられないだろう。
私は小説や漫画であまりに衝撃的な哀しい出来事があると、思わず外に飛び出して町をさ迷うという変な習性があるのだが、人生で3度あったうちの一回がこの小説だ。ちなみに残りの二つはあだち充の「みゆき」と「ドラゴンランス戦記」である。まあ、若い時の気の迷いと言えばそれまでだが、それほどまでに頭の中を銀河の彼方の戦い一色に染め抜く恐ろしい小説である。
SFが好きで、歴史もちょっと興味がある、戦闘シーンは大好きという方は、迷わず手に取って損はない。逆に歴史書的な文章や注釈が苦手な方は合わないかも知れない。私は10巻まで読む価値はあると思うが、人はそれぞれ、まずは、ちょっと試してみても損はないと思うレベル。
ずっと先に、どんな論説も打破できる究極の台詞というのが出てくる。これは喧嘩などで有用と思われるので、ぜひ使ってほしい。
「何々が何々でお前が何々だ!(論理的非難)」
「それがどうした!」
ただし、喧嘩が悪化しても責任はとれない。個人的には無人島に持っていきたい本の一冊(14冊外伝も入れて)に入っている。
(きうら)