- タイトルが全てのがっかりSF小説
- 首都は消失する、するが……
- 読みたいテーマと微妙に違う
- おススメ度:★★✩✩✩
(あらまし)首都圏に突如発生する正体不明の異変。都心を半径30㎞、高さ1000mにもなる巨大な雲が覆ってしまった。都心とは完全に通信や交通が遮断されてしまう。閉じ込められた人々の運命はどうなるのか。この異常事態に政府はどのような対応をするのか。第6回(1985年) 日本SF大賞受賞のディザスター小説。
はっきり言ってこの本を読むことはおススメしない。迂遠な表現をすると、痒い所に全く手が届かないまま小説が終わるからだ。分かりにくいのでネタバレ覚悟ではっきり書く。これから読もうと思う人は間にCMを挟むので、そのまま読み飛ばしてほしい。この小説の欠点は……
雲の正体が最後まで分からないことだ!
何なんだこのラストは。人がせっかく期待して長編小説に付き合ったのに「雲の中は謎に包まれているのであった」みたいな終わり方をするのは、ずるい。同じような設定のスティーブン・キングの「ミスト(闇の展覧会 霧 (Ama))」はちゃんと霧の説明と、霧が晴れた後の説明を明確に示している(それがいいかどうかはまた別の話)。こんなモヤモヤしたラストは、そうないと言っても過言ではない。
多方面で評価の高い小松左京氏だが、この作品を見る限り、はっきり言って私は全く評価していない。思わせぶりな描写ばかり重ねて、話の中心から逃げているように思える。もちろん、描きたかったのは謎の雲の正体ではなく、それに右往左往する社会と人間の群像だったのだろう。それはわかる。でも、文学作品じゃないんだから、ちゃんと落としてもらわないと読み手は大変困る。何を面白がっていいのかよくわからないのだ。
どうせ謎のまま終わらせるなら、いっそ霧は晴れず、どんどん広がっていくほうがまだ面白い。解決の糸口だけつかんだような状態で終わるのは、汚い言葉いえば無意味な美人局そのもの。この娼窟には、怖いお兄さんは出てこないが、美しいお姉さんもいない。誰もいない。
結局、お話も結論もこの小説の面白さも「霧の中」のまま。SF好きの方がいれば、後学のためにお勧めするくらいの作品だ。
(きうら)