- 結局、上手く騙された感じがする
- とにかく性的メタファーの多い後編
- 誰かに勧めるかといわれると勧めない
- おススメ度:★★★☆☆
第1部を読んだのが3月で、今が7月なのでそれから第2部を読み終えるのに4か月もかかってしまった。これは読むのが遅いというより、読む決意がなかなかつかなかったからだ。理由はある。まず、第一に、村上春樹が異常にこだわる性的表現に少々食傷気味であったこと、物語が単純に平坦で読むのが苦痛だったこと、単に時間がなかったなど。第2部の半分は半日で読んだので、結局、読む決心がつかなかったのが大きい。
(あらまし)騎士団長という奇妙な抽象キャラクターが顕現する世界で、画家と金満家とその娘、そして画家の嫁と友達と娘をめぐる「家族ドラマ」を村上春樹が、恐ろしく遠回りな手法を用いて表現した物語の後編。「恐ろしく」は「畏ろしい」でもあり、凡百の作家ならメロドラマの題材にしそうなテーマを、よくこれだけ煙に巻けると感心したのは正直なところ。とにかく、物語的な起伏に乏しく、それでいて話は長い。「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」のエンターテイメント性や「風の歌を聴け」の勢いのようなものをそぎ落とした静かで、抽象的なものに支配された著者独特の作品世界が広がっている。
怖い本として読むと、十分怖いのだが、怖いと感じるためには、この小説のテーマを理解しなくてはならず、それは結構面倒だ。単純に娯楽小説を読みたいのであれば、もっと別にいい作品はあるし、文学としての重さやテーマを求めるのであれば、これももっといい作品があると思う。ならば、駄作かといわれるとそうも言いきれない部分もあり、何だか良く分からないまま「いつもの村上春樹」を読み終えたという乾いた感想だけが心の中に湧き起こってきた。
著者は人間の性的な行動と世界の真理には不可分のものがあるという確信を持っているに違いない。それほどまでに、無駄に性的--エロ表現にこだわっている。エロスこそ人間の本性であり、それは理性と分かつことはできないと何度も繰り返し主張される。それはそれで構わないのだが、このテーマは最初の作品からずっと続いているものであり、さすがに何度も繰り返し読んでいると「もういいよ」という気分になる。それはそうかもしれないが、何度も他人の性的行動を子細に描写されても、私の気持ちは冷めるばかり。この部分は正直に言って、まりえという少女の胸のサイズの問題も含め、すごくどうでもよくて、これが読むのが苦痛な理由だった。
それに比べるとリアリティを失う物語のクライマックスは、むしろ生き生きとしていて、著者は本来はもっとちゃんとしたファンタジーを書くべきではないかと思った。中途半端なリアリティを挿入するより、いっそ「指輪物語」級の架空の世界を読んでみたい。前述の「世界の~」の方が魅力的なのは、多分著者の資質にあっているからだと思う。乾いてクールな表現も一流だとは思うが、むしろそちらを切り捨ててファンタジーに浸ってみて欲しいとも思う。
読み終えてみると、テーマは全て収まるところに収まっており、納得できないこともなく、それについて不満はない。ただ、これを誰かに勧めるかといわれると、相当躊躇することになると思う。簡単に言えば、著者はもう別に著作が「受けても受けなくてもいい」と考えているような節があり、終わり近くに唐突に挿入されるある日本の大事件を見ても、どこか「投げて」いるような印象を受ける。もっと簡潔に言えば、村上春樹は「枯れて」しまっている。それはいい意味でも、悪い意味でも。
とにかく、表現したいテーマもわかるし、それなりの感慨もあるのだが、じっくり読みたいようなものでもなく、実に微妙な感想になってしまった。それはこのレビューにも現れていると思う。今から読む人は少ないと思うが、無理して読むほどのものではないとは思う。結局、物語的には何も起こっていないし、やはり村上春樹流の家族ドラマであることには間違いないのではないかと、結論としてはそう思う。
(きうら)