★★★★☆

20世紀ラテンアメリカ短篇選(野谷文昭[編・訳]/岩波文庫)~読書メモ(38)

投稿日:2019年5月10日 更新日:

  • 読書メモ(038)
  • ラテンアメリカ文学の、とっかかりとしては良い短編集
  • ホラー短篇集として読める
  • おススメ度:★★★★☆

【はじめに】

本書は、ラテンアメリカ文学者16人の、短篇をあつめたもの。ラテンアメリカ文学読んでみたいけど、長編はちょっと敬遠したいという人向けの短篇集。個人的には、読んだことない作家のものもあったので、まあまあよかった。テーマごとにまとめられているので、その順に簡単な感想を。

【(1)多民族・多人種的状況/被征服・植民地の記憶】

・オクタビオ・パス「青い花束」
[掌編ともいえる作品。主人公が、何も見えない夜におそろしい目に遭う。詩のような一篇なのは、パスだからか。夜と炎と青とが印象的。]

・カルロス・フエンテス「チャック・モール」
[チャック・モールとは、「マヤの仰臥人形」で神像でもある。語り手は友人フィリベルトの日記を読むのだが、その内容は狂気と不穏さをはらんでいる。なんかクトゥルー神話というか、ゴシックホラー風幻想文学として読める。]

・イサベル・アジェンデ「ワリマイ」
〔「身振りと言葉は人の考えを表している」からキケンということがテーマか。死んだ人の魂と一体化し、それから離れるまでを語る。けっこうきっちりした語りで分かりやすい〕

・ミゲル・アンヘル・アストゥリアス「大帽子男の伝説」
[「魔術的リアリズム」の創始者らしい作品。この短篇は、ある「修道士」が、悪魔のように跳ねまわる「まり」と戯れる。それがやがて童話のようなところに落ち着く]

・エレーナ・ガーロ「トラスカラ人の罪」
[「現在も過去も未来もなくなった」ラウラの語り。二日間行方不明で、異時間へと飛んでいた彼女は、メキシコが征服された時にいったりする。ラウラは、無意識の語り手であり、幻視者でもある。ラウラが元の時間(?)へと戻るのがイイ。幻想文学というか、ファンタジーというか]

・アウグスト・モンテローソ「日蝕」
[おそろしい超短編。掌編なのだが、これ読むと、長編読むのがバカバカしくなると錯覚するほどの中身の濃さ]

【(2)暴力的風土・自然/マチスモ・フェニミズム/犯罪・殺人】

・オラシオ・キロガ「流れのままに」
[蛇にかまれ、死に至るまでの流れを、男のそれまでの過去と重ね合わせて、川の流れのように描く好短篇]

・マリオ・バルガス=リョサ「決闘」
[まあ簡単に言うと、ホモソーシャルな集団同士の戦い。臨場感もあり、かつ、最後の虚しさがよい]

・ガブリエル・ガルシア=マルケス「フォルベス先生の幸福な夏」
[地中海の海辺で過ごす、兄弟たちのもとに厳格な「軍曹」めいた女家庭教師が訪れて、二人の少年の生活は一変する。少し横暴で恋する先生と、海辺のきらめきのあと、ラストの犯行現場が印象的になる]

・アナ・リディア・ベガ「物語の情熱」
[推理小説めいたものを書く「私」は、友人のビルマから誘われて、フランスへと赴く。枠物語の構造と、フランスでのビルマ一家のことが、どこかゴシック風な味付けで語られてよい。文学作品を用いた比喩表現もおもしろい]

【(3)都市・疎外感/性・恐怖の結末】

・マリオ・ベネデッティ「醜い二人の夜」
[醜い容貌を持つ男女が出会うという筋の話。「幸福な不幸者たち」のなぐさめが、ひっそりと闇に浮かぶ淡い光のよう。均質化された一般の都市住民者からは疎外されているけれども、この二人が並ぶと「調和」が生まれる]

・サルバドル・ガルメンディア「快楽人形」
[街の片隅でひとり、「僕」は官能小説を読みながら……というだけの話]

・アンドレス・オメロ・アタナシウ「時間」
[都会に住む人々の、おおむね過去という時間をふりかえることで、その登場人物たちの孤独や死が身近に迫るさまを描く。いくつかの短篇で構成されていて、その中には、ホラーのようなオチがつくものもある]

【(4)夢・妄想・語り/SF・幻想】

・レイナルド・アレナス「目をぶって」
[八歳の「ぼく」が、道を歩きながら夢想するというお話。単純だけれども、なんとなく懐かしさをおぼえて良い]

・アルフレド・ブライス=エチェニケ「リナーレス夫妻に会うまで」
[語り手のセバスチャンが、「精神科医の先生」相手に夢の内容を、妄想めいたものとして語りまくるというもの。けっこう理路整然とした部分がある]

・アドルフォ・ビオイ=カサーレス「水の底で」
[ちょっとふしぎな三角関係の話。一人の女性に恋い焦がれ女性からも求められて、関係を持った語り手が、もう一人女性を愛する別の男性と彼女をめぐって、地上と水中という位置で相対する。半漁人になる過程はファンタジーというより、何も知らずに読んだらインスマスやんけ、と思うかもしれない。というか、この一篇に手を加えたら、クトゥルーものとして通用するかもしれない。そういや、ボルヘスはけっこうラヴクラフト読んでたみたいだが]

【まとめと余談】

いろんな毛色の作品があるので、それなりに楽しめる。文学というより、幻想文学として楽しむのもありじゃないかと思う。そういう意味ではおもしろい。
余談として、これを書いている今日(4/30)に、ラテンアメリカ文学者の鼓直さんの訃報に触れました。いろいろな作品を翻訳なされて、こちらはいろいろ楽しみました。どうもお疲れ様でした。

(成城比丘太郎)


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