★★★★☆

黒い家(貴志裕介/角川ホラー文庫)

投稿日:2016年12月11日 更新日:

  • 「やっぱり生きた人間が一番怖い」をたっぷり楽しめる
  • リアルな設定と抑えた文章
  • スリリングな展開で抜群の没入感
  • おススメ度:★★★★☆

保険会社に支払査定主任として勤める主人公とその顧客である不気味な登場人物との関りが、現実感たっぷりに描かれる貴志裕介氏の傑作ホラー。作品世界への吸引力も強烈で、読み進むにつれまるでグイグイ引き込まれていく。「ホラー小説」って面白い、と素直に言える一冊である。

著者の体験に基づく保険会社の裏側も非常に興味深く、普段知ることのない世界が体験できる。いかにも「ありそう」なクレームや狂ったお客に、自分は「保険会社に勤めなくてよかった」と、つくづく思う。作中に登場する「取り立て屋」もその背景に広がる黒い社会を想像させて楽しい。そして、その危ない世界を安全な場所から体験できるという、ある種の優越感。

ところが、作品を読み終わると自分もまたこの「黒い家」のある世界に住んでいるということを実感させられる。身近なところにもこの手の憎悪や醜い欲望はあるのではないか、いや、本当は自分の中にもあるのではないか、と感じさせられるのが本当に怖い。

ただ、作品が発表されたのが1997年であり、どうしても作中の社会の描写が古く感じるだろう。とくに若い読者の方にはピンとこない描写も多いのではないかと思う。ただ、それを差し引いても面白いお話であることは変わらない。怖い話は読みたいけど、幽霊や超自然的な存在が苦手な方にも最適な作品。

(きうら)

-★★★★☆
-, ,

執筆者:

関連記事

パンドラの少女(上)・(下)(M・R・ケアリー/創元推理文庫) ~あらましと感想、軽いネタばれ

不気味な存在が跋扈する、ポスト・アポカリプスもの。 荒廃した世界での、命をかけたサバイバル。 自分は何者なのか、ということに苦悩する少女。 おススメ度:★★★★☆ 世界は「<大崩壊>」という人類の危機 …

来るべき種族(エドワード・ブルワー=リットン、小澤正人[訳]/月曜社-叢書・エクリチュールの冒険)

「来るべき種族」という新人類? ユートピア文学の系譜を受け継いだSF的作品 謎の力「ヴリル」におびえる語り手 オモシロ度:★★★★☆ 【最初におしらせ】 はじめにちょっとしたおしらせですが、個人的な体 …

魔法にかかった男(ディーノ・ブッツァーティ〔著〕、長野徹〔訳〕/東宣出版)

ブッツァーティ短篇集1 寓話としても読めるし、現実的な話としても読める しずかに忍び寄る不安や恐怖が味わえる、かも おススメ度:★★★★☆ 昨年末、新たに掘られた鉱山に、いくつかの展示がなされたという …

伊達政宗 (2)人取られの巻(山岡荘八/講談社) ~とにかく面白かったので紹介編

ますます冴えわたる政宗の知略と武勇 強烈なキャラクター造形と確かな人物像 次から次へと襲い掛かる試練の連続に目が離せない おススメ度:★★★★☆ 前回の紹介記事では、このシリーズを読むことになったゲー …

ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド(任天堂/Nintendo Switch)~クリア後のレビュー

爽快感のあるバツグンの操作性 物語性は濃くはないが、印象に残るキャラクター ダンジョンが少々難しい おススメ度:★★★★☆ 前回、2017年6月15日に1時間ほど遊んだ感想と回顧録的な感想(前回の記事 …

アーカイブ