3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★★★☆

黒い家(貴志裕介/角川ホラー文庫)

投稿日:2016年12月11日 更新日:

  • 「やっぱり生きた人間が一番怖い」をたっぷり楽しめる
  • リアルな設定と抑えた文章
  • スリリングな展開で抜群の没入感
  • おススメ度:★★★★☆(20210913も同様)

保険会社に支払査定主任として勤める主人公とその顧客である不気味な登場人物との関りが、現実感たっぷりに描かれる貴志裕介氏の傑作ホラー。作品世界への吸引力も強烈で、読み進むにつれまるでグイグイ引き込まれていく。「ホラー小説」って面白い、と素直に言える一冊である。

著者の体験に基づく保険会社の裏側も非常に興味深く、普段知ることのない世界が体験できる。いかにも「ありそう」なクレームや狂ったお客に、自分は「保険会社に勤めなくてよかった」と、つくづく思う。作中に登場する「取り立て屋」もその背景に広がる黒い社会を想像させて楽しい。そして、その危ない世界を安全な場所から体験できるという、ある種の優越感。

ところが、作品を読み終わると自分もまたこの「黒い家」のある世界に住んでいるということを実感させられる。身近なところにもこの手の憎悪や醜い欲望はあるのではないか、いや、本当は自分の中にもあるのではないか、と感じさせられるのが本当に怖い。

ただ、作品が発表されたのが1997年であり、どうしても作中の社会の描写が古く感じるだろう。とくに若い読者の方にはピンとこない描写も多いのではないかと思う。ただ、それを差し引いても面白いお話であることは変わらない。怖い話は読みたいけど、幽霊や超自然的な存在が苦手な方にも最適な作品。

(きうら)

-★★★★☆
-, ,

執筆者:

関連記事

怪物(ディーノ・ブッツァーティ、長野徹〔訳〕/東宣出版)

「未邦訳短篇集第三弾」 「幻想と寓意とアイロニー」 小さなものが大きなものにつながる オモシロ度:★★★★☆ ブッツァーティの未邦訳短編集刊行もこれでひとまず終わり。それでも、まだまだ未邦訳の作品があ …

ナイトランド(ウィリアム・ホープホジスン/原書房)※絶版本~あらすじとそれに関する軽いネタバレ、感想

長編ファンタジーにホラー要素の加わった冒険譚 得たいの知れない怪物のオンパレード 愛する女性をおもいやる男の一途な想い。いい意味で おススメ度:★★★★☆ イギリスの怪奇小説家ホジスンの最高傑作。舞台 …

地獄変(地獄変・偸盗 (芥川龍之介/新潮文庫)より) ~概要と感想

希代の絵師がゾッとする方法で描いた「地獄変」の屏風の話 芸術と人間の業を鋭く描く ホラー的にはむしろお殿様が怖い おススメ度:★★★★☆ 芥川龍之介の著名な作品の一つ「地獄変」。ただ、その内容から、タ …

『ネクロノミコン』の物語(H・P・ラヴクラフト、森瀬繚〔訳〕/星海社)~読書メモ(40)

読書メモ(040) 「新訳クトゥルー神話コレクション・2」 超ベタなゴシックホラーとして読める おススメ度:★★★★☆ 本書は、ラヴクラフト(と、一部の作品では別の人)が書いた、クトゥルーものから『ネ …

役に立たない対話(成城のコラムー61)

  「コラム061」 このブログ記事は役に立たないけど、 ここで取り上げる本は役に立ちますっ! オススメ度:★★★★☆ 【登場人物】 K:高校生。バンドやってます。 私:花粉症気味。 【どの本をどう読 …

アーカイブ