- 妖怪をテーマにした悲恋
- 古典調だが読みやすい
- 予想以上に二転三転する物語
- おススメ度:★★★★☆
玉藻の前といえば、妖怪ファンにはお馴染みの九尾の狐、そして那須の殺生石。文学全集にも名を連ねる岡本綺堂がそんな妖怪を題材にどんな小説を書くのか。結構ワクワクして読んだ。
出だしは地味な展開だが、これが実に面白い。古文調だが、読みやすく、すぐに物語に引き込まれる。基本的な物語構造は悲恋で、立場の違う二人が惹かれあい、やがて悲劇を迎えるロミオ&ジュリエット方式だ。
物語の展開は非常に不安定で、現代的な予定調和を見ないところがいい。地味な展開が続くかと思うと、突然、妖怪が跋扈する幻想的な描写が入る。主人公が破滅しそうになると救われ、救われそうになると破滅する。大団円に落ち着くと見えて、まだ何転かする。偉大な先達にこんな言い方は失礼だが、小説の作りが非常に上手い。
九尾の狐、陰陽師、術比べなど、ライトノベル的要素を内包しながらも、これほど奥の深いエンターテイメントに仕上げるとは、岡本綺堂は恐るべき作家だ。妖怪好き、奇譚好きには是非オススメ。ちなみに青空文庫でも読める(玉藻の前のみ)。