★★★☆☆

鬼の跫音(道尾秀介/角川文庫)

投稿日:2017年2月23日 更新日:


  • 現代的な会談の短編集
  • 人間の歪んだ悪意・鬼がテーマ
  • それなりのオチ
  • おススメ度:★★★☆☆

人間の持つ「悪意」とそれが生まれる原因をテーマとした、現代的な怪談ともいえる短編集。題名にある「鬼」とは人の心の中に存在する「殺意」や「憎悪」で、全部で6つの短編が収録されている。
本の紹介にもあるが、それぞれのあらましはこんな感じだ。前半3篇は、「鈴虫」表題の昆虫をキーにした男女間の愛憎劇。「ケモノ(※原題はケモノの「偏」の部分)」は刑務所で創られた椅子に掘られた文字から、ある家族の歪な秘密に迫る。祭りの夜に強姦を計画した主人公を含む仲間、20年後に主人公はもう一度、その出来事を…という「よいぎつね」。

後半3篇、「箱詰めの文字」は友人の小説の剽窃をめぐり起こる事件、「冬の鬼」表題のフレーズが作中の冒頭である一遍。大火傷を負った主人公の女性が、その恋人に行う狂った「行い」とは。ラストの「悪意の顔」は、絵の中になんでも閉じ込める能力のあるという女性に、主人公は母親の死をきっかけにいじめるようになった親友を閉じ込めるように望むようになるが…という、ちょっと不思議色の強い話。

以上、ざっとあらすじを書いてみたが、オカルト的要素は少なく、人間の歪んだ悪意が様々なテーマで表現されている。ちょっとした推理物のようになっている「ケモノ」など、テーマは同じながら、気持ちの悪いものから、ちょっと哀切に富んだものなど様々だ。どの作品にも「S」というアルファベットで表現される登場人物がいるので、ちょっとだけ夏目漱石の「こころ」っぽい。

全体的には、煽り文句にあるような「驚愕の結末」は言い過ぎだと思うが、それなりのオチが用意されているし、短編であることと、平易な文章のせいで非常に読みやすい。怖いというか後味の悪い話が多い気がするが、上記のあらすじに興味があれば読む価値はあると思う。特に表題作の元になった「冬の鬼」は、悲しくも美しく、且つ狂気を感じる作品で、中々の力作ではないかと思う。

蛇足・本の装丁は2種類あるようだが、トップに掲載した山田緑氏(ご本人のHP)の描かれた表紙の絵が非常に好み。こんな精緻な絵を描いてみたい。

(きうら)


鬼の跫音 [ 道尾秀介 ]


-★★★☆☆
-, ,

執筆者:

関連記事

K・Nの悲劇(高野和明/講談社) ~あらすじと感想、ネタバレもあり

妊娠・中絶をテーマに壮絶な夫婦の戦いを描く 最初を抜ければ、一気に読み通せる通読性 ただ、傑作に至るには今一歩何かが必要だ おススメ度:★★★☆☆ 随分長くかかってしまったが、この度の本屋の「店員さん …

KAPPA (柴田哲孝/徳間文庫) ~あらすじと感想、軽いネタバレ

沼で人が喰い殺された謎を追うルポライター ホラーでもなく、ミステリでもない、サスペンス系 割と明るい雰囲気の気楽な娯楽小説 おススメ度:★★★☆☆ かなり前に「TENGU」という小説を取り上げたが、そ …

妖し語り 備前風呂屋怪談2(岩下志麻子/角川ホラー文庫)

天女のような湯女・お藤が客から聞く時代怪談 湯女は今で言う風俗嬢(ソープランド?) 嘘と真を行き来するので幻想的 おススメ度:★★★☆☆ シリーズものの本を読む場合、滅多に巻数を飛ばして読まないのだが …

山岡鉄舟と月岡芳年について《1》~あるふたりの会話から

   山岡鉄舟-決定版(小島英記/日本経済新聞出版社) 月岡芳年伝(菅原真弓/中央公論美術出版) とあるふたりの暇にまかせた会話 幕末明治を生き抜いたふたりの人物から 江戸で生まれたふたりに、ニアミス …

グリーン・マイル(4)~(6)(スティーヴン・キング/新潮文庫) ~簡単なあらすじ、前半ネタバレなし、後半ネタバレ感想

神への挑戦状か、捻くれた人間賛歌か? 残酷な視点で描かれる悲劇的展開 キングらしさは十分味わえる おススメ度:★★★☆☆ 本文に入る前に、まずは、お礼を述べたい。この一年、このサイトを訪れて頂いた全て …

アーカイブ