★★★☆☆

雨がやんだら/蚊 (椎名誠/角川文庫)~あらすじと感想、軽いネタバレ(椎名誠超常小説ベストセレクションより)

投稿日:2017年3月3日 更新日:

  • 「雨」「蚊」をテーマにしたワンシチュエーション小説
  • 「雨」は哀切、「蚊」は不気味な読後感
  • 怖いというほどではないが、上記が気に入れば、他の小説も楽しめる。
  • おススメ度:★★★☆☆

「雨がやんだら」と「蚊」は、椎名誠氏の「超常小説ベストセレクション」の中に収められている。本書は、この他にも「中国の鳥人」や「みるなの木」など、過去、バラバラの短編集に収められていた19編の短編を集めた「ベストセレクション」で、全部は無理なので、今回はその中で意外に怖かった二編を紹介したい。

「雨がやんだら」は後の傑作SF小説「水域」につながるワン・シチュエーション小説だ。どこだか知らない「崩壊した」場所に住む男たちが、赤い箱を拾うところから小説はスタートし、その中に入っている少女の「日記」を読むという内容だ。日記の中身はまさに題名そのままで、「雨がやまない」世界を少女の視点で描かれている。雨の状態は段々悪化して……という、あらすじだ。
たったそれだけで、最後に驚くようなオチがあるわけではないが、少女のたどたどしい文章で語られる様子が意外に不気味で、なんだかうそ寒い気持ちになる。調度、戦争の話を子供の視点で見ているような感じだ。「雨が降る」というのは非常に身近なシチュエーションなので、その状態を実感できるし、ラストも少々哀切がある。

もう一つの「蚊」も、同じく「蚊に襲われる」というワン・シチュエーション小説だ。一人の男が、異常な蚊の大群に六畳間で襲われて、それと戦うというだけだが、文章全体に狂気が溢れており、まさに「超常小説」の名前に恥じない内容だ。少し古いがヒッチコックの「鳥」の「蚊」版だといえば、分かりやすいかも知れない。作品の元ネタは、氏の代表作「わしらは怪しい探検隊」で、実際にテントで「蚊柱(科の大群)」に襲われた実体験だろう。

椎名誠氏は、まえに作者の違う短編集「魔法の水」で少しだけ紹介したが、実に多彩・多作な作家で、我が家にも100冊近くの蔵書がある。作風は大別すると4つに分かれ、全盛期の椎名誠のイメージにある「旅する冒険家」にあたる旅行記(「あやしい探検隊シリーズ」「シベリア追跡」「インドでわしも考えた」など)、今回のような「異常な状態」を扱ったSF風要素もある短編小説集、自らの体験をストレートに題材にした自伝風小説(「銀座のカラス」「哀愁の町に霧が降るのだ」「岳物語」シリーズ)など、そして日本SF大賞を受賞した「アド・バード」や前述の「水域」「武装島田倉庫」とそれに連なる本格SFシリーズがある。

全体的にはユーモラスで愉快な作風の方が多いが、今回のような異常な状況を扱った小説には傑作も多く、特にSF三部作と題される「アド・バード」「水域」「武装島田倉庫」はどれもテーマは違うが、全部素晴らしい作品だ。私見だが「武装島田倉庫」は一番のお気に入りで、大傑作小説だと思う。また、別に紹介したい。
2017年2月現在、椎名誠氏は72歳。それでも新作は刊行され続けている。先日、引退撤回発言(?)があった、かの宮崎駿氏が76歳。作品に年齢は関係ないと思う。ちなみに氏作品はホームページ「椎名誠の旅する文学館」で、本人と親友による対談形式の解説が読むことが可能だ。

とりあえず、この二編を読んで気に入ったら、他の小説にも進んでみてもいいかもしれない。

蛇足:旅記ものでは爆笑キャンプの記録「わしらはあやしい探検隊」の第一作目が最高傑作、自伝シリーズでは熱い展開の「銀座のカラス」がおススメ。そして、SFはどれも素晴らしいが「武装島田倉庫」のリンクを最後に張っておきたい。
わしらは怪しい探険隊 (Amazon)
わしらは怪しい探険隊 (楽天)
銀座のカラス(Amazon)
銀座のカラス(上)(楽天)
武装島田倉庫 (Amazon)
武装島田倉庫新装版 (楽天)

(きうら)



-★★★☆☆
-, , ,

執筆者:

関連記事

縄文の思想(瀬川拓郎/講談社現代新書)

アイヌと古代海民との共通性 近現代までにいきのこる縄文の思想 おおまかなまとめ おススメ度:★★★☆☆ 著者は、考古学者でアイヌの研究者です。これまでの著書ではアイヌの歴史などを(主に)追ってきました …

人生の短さについて他2篇 (セネカ/光文社古典新訳文庫)

正しい時間の使い方とは。 今忙しく働いている人が読んで、はたして実践できるかどうか。 「他2篇」の方が役に立つかも。 おススメ度:★★★☆☆ セネカは日本ではよく売れているようです。私の手元にある岩波 …

道元「典座教訓」(藤井宗哲〔訳・解説〕/ビギナーズ日本の思想)

禅寺の食事係の僧である典座(てんぞ)について 食事による身体と心の涵養 精進料理と言ってもヴァラエティは豊富 おススメ度:★★★☆☆ 生きることにおいて最も必要なのが食事をとることなのは言うまでもない …

新装版 ロードス島戦記 灰色の魔女 (水野良/角川スニーカー文庫)~あらましと感想

シンプルな冒険ものファンタジー 熱血主人公戦士、エルフの美少女、頑固なドワーフに思慮深い魔術師…… 現代ラノベ系ファンタジーの開祖と言える作品 おススメ度:★★★☆☆ 幼いころから本を読むのは好きだっ …

オブ・ザ・ベースボール(円城塔/文春文庫)

一年に一回人が落ちてくる。それをバットで打ち返す人の話 不条理小説とも単純な人生の比喩とも取れる シャープな文章。怖くはないが少しだけグロイ所も おススメ度:★★★☆☆ 文學界新人賞受賞作、ということ …

アーカイブ