★★★★★

変身(フランツ・カフカ/集英社文庫ヘリテージシリーズ『カフカ』より)~あらすじとそれに関する軽いネタバレ、感想

投稿日:2017年4月8日 更新日:

  • 日本一有名な変身譚(おそらく)の新訳
  • グレゴール・ザムザを襲った悪夢のような境涯と、彼の明晰な自己分析
  • 人間でなくなったものと、その家族との断絶
  • おススメ度:★★★★★

夢から覚めたグレゴール・ザムザが虫に変身していた。誰もが出だしを知っているこの作品。昔私が読んだ高橋義孝訳(新潮文庫版)では単に「虫」となっているのだが、ドイツ在住の作家多和田葉子(wiki)翻訳による本編では「ばけもののようなウンゲツィーファー(生け贄にできないほど汚れた動物或いは虫)」と実に長ったらしい。
「ウンゲツィーファー」である。響きがなんかコワイ。さらに「生け贄にできない云々」とあるからには「生け贄」界からの戦力外通告でしょうか。グレゴール本人がその姿になったことに「気がついた」とあるので、グレゴール自ら「ばけもののようなウンゲツィーファー」と規定したのでしょう。外見は虫なんですが。「女中」には「フンコロガシちゃん」と呼ばれてます。しかしこの虫は林檎で傷つくくらい弱いです。

訳者の多和田はタイトルを<へんしん>ではなく<かわりみ>とふりつけてます。これはどういうことか。以下私の勝手な考えでは<へんしん>だといずれ解かれるイメージがあります。魔法少女とかもそうですしね。一方<かわりみ>とは変わり身、身体がいれかわる、つまり何か別のものに生まれ変わることを示しているのではないかと思います。それは元に戻らないことを表していると受け取れます。人間をやめてどうにもならないものとして自ら生まれ変わったグレゴールと、その家族とのドタバタ劇めいた軋轢がこの作品の流れになるかなと思います。

多和田は「解説」で、グレゴールと家族との状況を現代的問題としての「介護」や「引きこもり」と絡めて述べていますが、私も今だとそう読みました。グレゴールと家族との断絶はディスコミュニケーションすぎて「引きこもり」のレベルではないと感じましたが、「介護」という読みでは、意思疎通の困難になった晩年のわが祖父との悲しい記憶がよみがえってきました。
読む人読む年代などによって、読み方が変わる、その意味でも<かわりみ>をゆるす作品です。

(成城比丘太郎)

編者注・読もうと思えば青空文庫でも読める著名な作品です(一応リンクも貼っておきます)が、論者の意志を汲んで敢えて新訳版を掲載しています。私としては両方読んで比べてみると面白いと思いますよ。虫のドイツ名の怖さは新訳の方が圧倒的に優れていると思います。
青空文庫版:「変身」カフカ(リンク


(楽天)

-★★★★★
-, ,

執筆者:

関連記事

模倣犯(1-5) (宮部みゆき/新潮文庫)

続婦女誘拐殺人事件がテーマのサスペンス小説 事件が複数の視点で描かれる。非常にスリリングな展開 気になる点ももちろんあるが、ページをめくる手が止まらない大傑作 おススメ度:★★★★★/li> 「 …

この世界の片隅に 上・中・下(こうの史代/アクションコミックス)

第2次世界大戦前後の広島の日常生活が緻密に描かれる 主人公すずの天然で健気なキャラに癒される 直接的な暴力もあるが、それとは違う「怖さ」がある おススメ度:★★★★★ この作品の素晴らしさは各所で語り …

まっぷたつの子爵(カルヴィーノ/岩波文庫) ~あらましと感想、ネタバレあり

カルヴィーノ作品中屈指の読みやすさ。でもちょっと残酷。 身体が半分に引き裂かれた子爵の物語(寓話)。 老若男女すべての人向けで、感想文の対象に最適。 おススメ度:★★★★★ (あらすじ)語り手の「ぼく …

桜の下には何がある? ~「桜の森の満開の下/坂口安吾」&「桜の樹の下には/梶井基次郎」

2編とも短くて簡単に読める。 桜には魔力のようなものがある(個人差あり)。 狂気と正気のあやうい均衡が感じられる。 おススメ度:★★★★★ 「桜の森の満開の下」は、桜の魔力にあてられた山賊と、彼が奪い …

新版 指輪物語〈1〉旅の仲間 上1 (J.R.R. トールキン (著)/田中明子 (翻訳)/評論社文庫) ~あらすじと感想

現代ファンタジーの元祖ともいえる偉大な名著 弱きものが勇気で悪を撃つ感動の物語 「読みにくさ」は万人の認めるところ おススメ度:★★★★★ 一般的には、映画「ロード・オブ・ザ・リング(Ama)」と知ら …

アーカイブ