★★★☆☆

血統史たらればなし(栗山求/KADOKAWA/エンターブレイン)

投稿日:2017年4月17日 更新日:

  • 1冊で大まかなサラブレッドの血統の歴史の流れが分かる。
  • サラブレッドの歴史は、人とのキズナの歴史。
  • 競馬に興味のない人には星なし。競馬が好きなら星5つ。
  • おススメ度:★★★✩✩

人間生きていれば、何度もヒヤッとしたことがあるでしょう。「あの時~だったら、今ここにこうしていない」など、考えるとコワイ思いをしたことがあるはず。この本は、そんな「if」の競馬版。サラブレッドの長い歴史には「たられば」が満載なのです。

約150年前のイギリスには、走らない(デキの悪い馬)を片っ端から撃ち殺していた生産者兼馬主がいたという。なんてヒデー奴だ。狂える動物愛護団体・非所属の私でもこれは怒り心頭。しかし、そいつが早死にしたおかげで、生き残った馬たちの血統が今に続いている。そいつが長生きしていたら競馬の歴史は大幅に変わっていたかも。

又は、世界大戦の戦火をくぐり抜けてアメリカに渡ったある牝馬から、世界的な種牡馬がたくさん生まれている。もし途中で力尽きていたら、世界の血統地図はかなり変わっていたかも。ほんま、ゾーッとしまっせ。この他にも国内外の「たられば」話がたくさんあります。(編者注:これがこの本の怖いところ。人に置き換えると競馬に興味がなくてもよくわかる)

日本の生産者でいうと、メジロ牧場の北野豊吉の執念が凄い。メジロアサマ→メジロティターン→メジロマックイーンと繋がるサイアーラインをつくった彼は、受精能力の低いメジロアサマ(種付け初年度はなんとゼロ)を、周囲の反対を押しきって毎年種付けし、5年後にようやくメジロティターンが誕生する。もしこの執念がなかったら、オルフェーヴルもゴールドシップ(注:両馬とも名馬)もいなかった。

またサンデーサイレンスは2度死地を潜り抜けたという。もしたおれていたら、もしサンデーが三冠を取っていたら、日本の競馬は何年遅れていたか。まあ、そうなったらそうなったで良かったかも、と考えてはいけないな。しかし、サイレンススズカが生きていたら、という想像だけは止めることができないなぁ。

サラブレッドは、かなり繊細でちょっとした病気や怪我にも弱い生き物です。だから「たられば」の話は尽きません。現役の日本のサラブレッドでおそらく一番有名なのは、北島三郎氏の愛馬キタサンブラックでしょう。キタサンブラックの父ブラックタイドはG2を勝っただけの馬。もし弟がディープインパクトでなければ、という想像もありがちですが、興味深いです。

この本は、競馬に少しでも興味がないと全くおもしろくありません。そういった意味で、一般的なおススメ度は低いです。内容が悪いわけではありません。

(成城比丘太郎)

(著者追記20170418)
競馬はもちろん(公営の)ギャンブルだが、一番ギャンブルなのはサラブレッドの生産者。何年もかけて馬を生産育成したはいいが、走るとは限らないから。相当のギャンブルだ。この本の主旨のひとつにはそういう生産者の労苦がある。
(編者補注:よくわかる競馬の本質)競馬というものは、一般の人でもある程度はご存知でしょう。馬が走って、一等を当てると、お金が増えて返ってくる楽しいギャンブルです。
別の言い方をしましょう。私は今JRA(競馬の運営団体)にお金を50万円以上預けています。そのお金を下ろそうと思うと手数料(100円~)がかかり、しかも暗証番号が勝手に変えられて全くわからない状態です。かくして暗証番号のわからないまま、ATMに適当に予想して打ち込むのですが、一回間違えると手数料が返ってきません。もしあっていても、暗証番号は複数あるため、簡単なパスワードを当てても、少額しか引き出せません。
こんな言葉が有ります。「(ギャンブルは数あれど)競馬で家を建てた人はいない」至言だと思います。先日の競馬場で、見知らぬオッサン紳士と会話しました。「当たりますかね」「わからんがね」「おじさん、お互い頑張りましょうよ」「わしらが頑張ってもあかんやろ」「え?」「だって頑張るのは馬だもん」「そりゃそうですね」「ハハハ!」「ハハハハ!」どうです。家は建ちそうにないでしょう?
(著者突っ込み20170418)
今現在のJRAが発売してるWin5だと、何千万何億という配当が結構でてる。公表してないだけで、その払戻金で家を建てた人はいると思う(マンションの頭金ぐらいなら必ずいるだろう)。というより、宝くじより高額金的中の可能性は高いだろう。半分は税金でとられるが。


(楽天)


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