★★★★☆

ノヴァーリスの引用/滝 (奥泉光/創元推理文庫)  ~あらしじと軽いネタバレ

投稿日:2017年4月19日 更新日:

  • 全編濃密なくらさ。
  • ミステリとサスペンス。
  • 文体はかためですが、すっと読める。
  • おススメ度:★★★★☆

『ノヴァーリスの引用』は、いわゆる「アンチミステリ」にも分類される、奥泉光の初期傑作。「死が絶対の終焉である~」で始まる一文は、ハードボイルドものかと思わせます。夜、闇、影、そして死が常にこの作品を取り巻きます。ある人物の「死」を巡って展開される推理の行方は錯綜していきます。

恩師の葬儀を終えた4人の中年に差し掛かった男たちが、居酒屋で「死」について哲学的な会話を繰り広げるところから始まります。そこで4人は、若い時に死んだ、一人の研究会仲間に思い至ります。自殺したとされる男「石塚」ついて語り合います。殺人事件を疑い、彼らは過去を辿りながら、暗闇の中から埋没した記憶を掘り出していきます。しかし、その記憶はひどく曖昧で真相には至りません。この辺りは推理を弄ぶようなかんじです。

「石塚」の弾いていたリュート、ノヴァーリスからの引用、マルクス、マニ教やグノーシス主義などの小道具が散りばめられ、推理小説の体をとった、一種の思想小説とも読めます。後半で「私」が幻覚に襲われる辺りがクライマックス。ラストは、あっさりしてます。多少謎は残りつつも。

ある意味、中年になった男たちが、若さの象徴のような「石塚」を悼んでいるのかとも思います。男たちが在りし日の自分達を懐かしんでいる、ともいえます。中年になった人が読むと感慨深いものがあるかもしれません。

一方の『滝』では、とある教団に属する若者(少年)たちの「山岳清浄行」に起こる、サスペンスフルな顛末を描いています。全体に緊密な文体で、それとリンクするように登場人物の間にも異様な緊張感があります。大人の出てこない狭い共同体の中で、少年たちが濃密な関係を結びます。ある罠にかけられた少年たちが次第に衰弱してゆき、それに伴って周りの自然も悪意を帯びたように不穏な描写になっていきます。まるで彼らの内面のイメージが外化したしたかのように。最後の破滅へ向かう疾走感は凄い。まさしく傑作です。

(成城比丘太郎)

(編者注)私の知らない小説が次々飛び出してくるので、親友ながら著者の博識ぶりには感服せざるを得ない。時間が無限にあれば、どれも読んでみたい。むろん、そんな人間は存在しないのだが。

 


(楽天)


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