★★★☆☆

IT/イット “それ”が見えたら、終わり。【映画】(アンディ・ムスキエティ監督)

投稿日:2018年8月20日 更新日:

  • キングの有名な原作の「一部」を描く
  • 特別怖くもキモくないのは文化が違う?
  • 少年たちの友情物語としてはまずまず
  • おススメ度:★★★☆☆

映画化されたスティーブン・キングの作品では、ミザリーやグリーン・マイル、ミストなどと並んで有名な作品……とはいえ、日本での知名度は低め。加えて「ショーシャンクの空に」を除くと、万人が認める名作がないというのもキング原作ホラー映画の特徴か。ジャンルはホラーで間違いないが、どちらかというと「スタンド・バイ・ミー」に寄せて作られているという印象だった。と、いうわけで、一言で言えばモンスター系ホラー&ティーンたちの友情物語になっている。

「夏だし、盆休みだし、たまにはホラー映画でも見るか」程度の気持ちで観たので、この作品が原作の一部だとは知らなかった。あまりに昔に原作を読んだので、落ちとさわり以外はほとんど忘れていたので「あれ、この尺でたりるのかな」と思っていたら、衝撃のチャプター1だった。映画の内容そのものより、その点に驚いたが、これは単なる勉強不足。

(あらすじ)1980年代アメリカ・デリー。主人公ビルの弟ジョージが、ある雨の日、ビルの造った紙の船を追って排水溝にたどり着く。そこで見たものは、暗闇潜むピエロ(IT)であった。そして行方不明になるジョージ。同時に町では失踪事件が相次いでいた。ビルは、弟の行方を追って、仲間たちとITの正体に迫っていくのだが……。

見始めて違和感があったのは、あれ、こんな少年少女ものだったけ? という印象だった。それもそのはず、原作では現代(大人編)と過去(子供編)を行ったり来たりし、最終的にITに至るのであるが、映画版では大人部分を丸ごとカットし、子供編に焦点を絞っている。時代設定も変更されている。いくら読んだのが10年以上前とはいえ、そのことに気づいたのは結構たってからだったので、我ながら鳥のような記憶力だと思う。

そんなわけで、ある意味完全新作のような気分で観られたのも確か。子供時代に焦点を絞っているので、観客としては観やすくなっていると思うし、そもそも文庫で4分冊されている分厚い原作を2時間の枠に入れるのは不可能だったのだろう。そういう意味では、映画らしい決断であろうし、変に駆け足であらすじだけ追うようにならなかったのはいい。

しかし、肝心のピエロ(IT)がイマイチ怖くないのはどうしてだろう。最初に書いたが、これはやはり文化の違いで、アメリカでは普通の人もピエロに何某かの狂気を感じているのではないだろうか。昔見たオーメンなども、映像的には不気味だったが、その根底にあるキリスト教的文化がないため、身につまされるものがない。絵的にはどちらかというと映画「ダークナイト」に出てきたジョーカーを連想させられた(あれもピエロか)。それぞれが思い描く「恐怖」の形に変身するという設定の「IT」だが、この辺も映像化すると案外地味だったりしてホラー映画としては、あまり怖くないだろう。

一方、主人公たちの友情物語としては、少々キャラクターが多い気もするが、まずまず楽しめる。よくいるアメリカの不良の描写も「ああ、何だかキングっぽい」と感じることができた。「スタンド・バイ・ミー」のような感動はないものの、一応爽やかなストーリーになっている。キャラクターも見分けがちゃんとつくぐらいには描き分けられているのでその点は評価したい。ただ、やはりキャラの多さが災いして、モブ扱いになるキャラクターもいるのも確かだ。

R-15指定になっているので、グロ表現についても触れておくと、時々、痛そうな描写は出てくるものの、目を覆うような残虐な描写は(私の主観では)ない。あくまでスプラッター映画ではないので、その辺はちゃんとセーブされているように思う。

思い返せば、全体的に疑問を感じるシーンも散見される荒さもあるのだが、そんなことを言ったら「グリーン・マイル」も「ミスト」も穴だらけだ。まあ、ラスト付近の強引な展開や、ほとんど大人が出てこないのでリアリティがないとか、よく考えるとちょっと見過ごせないところもあるので、緻密な映画が好きな方は観るのを避けた方が無難。逆にキングファンなら「まあ、ドリームキャッチャーにならなかっただけ随分マシ」と思えるはず。

何だかんだと、感想をダラダラ書いてみたが、キャリーや炎の少女チャーリー、痩せゆく男などの映画も見ているし、ホラー嫌いにしてはキング作品をよく観ている気がする。原作も結構読んでいるし、今更だが、実は私は結構なキング好きなのかも知れない。同様にキング好きであればまずまず楽しめる映画、そうでなくてもそれなりには観られるホラーではないだろうか。

でも、チャプター1はないよ! 最初に言って!

(きうら)

補足・チャーター2は2018年8月現在撮影中のようで、2019年に公開予定とのこと。大人編が描かれる予定らしい。


-★★★☆☆
-, , , ,

執筆者:

関連記事

向日葵の咲かない夏(道尾秀介/新潮文庫) あらすじとおススメ度、ネタバレなし

同級生の死の謎をめぐる小学生が主役のミステリ 一人称視点で平易な文章 「予備知識なし」で読む系 おススメ度:★★★☆☆ あらすじは、それほど複雑ではない。夏休み前に友達の家に届け物をしたら、その友達が …

赤死病(ジャック・ロンドン、辻井栄滋〔訳〕/白水uブックス)~読書メモ(61)

読書メモ(061) 突如世界を襲った伝染病 人類滅亡の危機を描いたフィクション オススメ度:★★★☆☆ 【どーでもいい近況報告】 この記事が投稿されているときには10月になっていると思います。いつもな …

人生の短さについて他2篇 (セネカ/光文社古典新訳文庫)

正しい時間の使い方とは。 今忙しく働いている人が読んで、はたして実践できるかどうか。 「他2篇」の方が役に立つかも。 おススメ度:★★★☆☆ セネカは日本ではよく売れているようです。私の手元にある岩波 …

孤狼の血(柚月裕子/角川文庫)

ダークヒーローを描く警察小説の一種 ステロタイプと見るか完成度が高いと見るか 熱い大衆小説である おススメ度:★★★☆☆ 昭和63年、広島県の架空の都市を舞台として、暴力団と癒着しながらも独自の倫理観 …

海の底(有川浩/角川文庫)

突如横須賀だけを襲った謎の巨大甲殻類。 潜水艦にとり残された自衛隊員と、13人の子供たち。 警察組織(特に機動隊員)の意地と奮闘ぶり。 おススメ度:★★★☆☆ 本書は、きうら氏が以前紹介していた(20 …

アーカイブ