- 伝説の超常現象捜査官の映画版ノベライズ
- モルダーとスカリーが出てくるだけで満足
- 当時としては異常によくできたドラマだった
- おススメ度:★★☆☆☆
これもまた古い話になるが、テレビドラマである第1シーズンが放送された1993年において、オカルト関連ドラマ=胡散臭い2流ドラマ扱いだったのは間違いない。今も昔もUFO、UMA、超常現象に目のない私は、当時、このドラマを見て激しい衝撃を受けた。実に「まとも」なのである。UFOを軸に超常現象を真正面から扱っているにもかかわらず、FBIの捜査官という設定から、通常のミステリとして見られるように工夫されており、上記の妖しさはだいぶ低減されていた。加えて、当時としては破格の予算を掛けたと思われるVFXのおかげで、結構ドキドキしながら見られることができたのだった。
(あらすじ)本編では時系列では第5シーズンと第6シーズンの間に位置する作品で、ある洞窟に落ちた少年が謎の病気に感染する。それを助けようとした消防員も同様。しかし、それを政府はその原因を隠そうとする。それに気が付いたモルダーは、いつものように妨害にあいながら捜査を続けるのだが……。ちなみに現在はシーズン10までが放送されている。
とにかく、この映画(と元になったドラマ)の肝は、主人公のFBI捜査官モフォックス・モルダーとダナ・スカリーの関係性が全て。モルダーは妹を宇宙人にさらわれた(らしい)という過去を持ち、執拗に超常現象の解明にこだわるが、スカリーはそんなモルダーの監視役として科学的・医学的立場から助言するという関係性なのである。つまり、当初はある種の敵対関係であり、通常は恋愛要素などを絡めていくのだが、そこはうまく外している。超常現象肯定派vs否定派を核にすることで、物語にメリハリが生まれ、その結果、各エピソードにリアリティがあって、単なるイノセントな話ではなくなっているのがいい。長期シリーズなので、ダレルシーンもあるが、色々脚本に工夫がされており、飽きさせないようにいろんな仕掛けがされている。
白状するとファーストシーズンはVHS(!)の全巻ボックスセットを買う程のファンだった。今でも実家にあるかどうか分からないが、幅20センチ、高さ30センチという存在感のある出で立ちであった。さらに正直に言うと第3シーズン途中で脱落し、その後、色々無視して今回の小説を読んでみた。第3シーズンまでは面白かった覚えがあるが、インターネットの普及と共にUFOの嘘が暴かれ、ドラマの軸が弱くなってしまったのは否めない。
今回の小説も、出だしはビルの爆破などのシーンで派手さはあるものの、後はいつものUFOいるいない系の話で、スカリーが捜査官を辞めるというシークエンスはあるが、結局そんなことにはならないと読者は知っているのであり、その点ではドラマ性は弱い。終わりもグダグダではっきり言って小説としての完成度は高くない。ただ、ファンとしてはモルダーとスカリーの会話が読めれば十分なのである。逆に言えば、元のシリーズを見ていない人が読んでもさっぱり面白くないと思うので注意が必要だ。モルダーの言葉に、スカリーが辛辣な言葉を返す。しかし、二人は信頼しあっている。これがこのストーリーの一番大事なところ。
ということで、「モルダー、あなた疲れてるのよ」が、ネットスラングとして定着しているようだが、調べてみたところ、このセリフに近いことは言っているらしいが、旧シリーズでは明確にはそうは言っていないらしい。まあ、社会の日陰者であるモルダー。「変人(スプーキー)」とあだ名され、FBIの窓際族である彼に妙に共感してしまう男性も多いはず。そんな男が、美人で聡明なスカリーから「あなた、疲れているのよ」という労いの言葉を掛けられるのは、ある種の男の願望として定着したのではないかと思う。
ちなみに、私がこのドラマでお気に入りのシーンは、スカリーがモルダーの事を気遣って「これ以上、首を突っ込んだら命が危ない。あなたが本当に大事なのよ」というような(だいぶうろ覚え)セリフを言うシーン(たぶん二期だったような)。それに対するモルダーのセリフが大好きだ。「これがドラマだったら、恋の始まりだね」。モルダーのクールさと恋愛と距離を置いた真摯さが人気の秘訣だと思う。
と、いう訳で、単体のホラーとしてはお勧めできないが、シリーズ好きなら、そこそこ楽しめる内容になっている。最低でもドラマをシーズン2くらいまでは観ておいた方がいいかも知れない。
うん、本当に「きうらさん、あなた疲れているのよ」と、確かに言われてみたい。
では、「そうだね。じゃあ、次の現場に向かおうか」と、応えて意地を見せたい。
(きうら)
※ちなみにAmazonプライムビデオで第1シーズンが観られた。いやー懐かしい。また時間があれば続けてみたい。