★★★☆☆

「幽霊屋敷」の文化史(加藤耕一/講談社現代新書)

投稿日:2019年1月9日 更新日:

  • 「TDL」にあるアトラクションについて
  • 「ホーンテッド・マンション」の成立史
  • ゴシック小説から、幽霊出現装置までを簡単に見る
  • おススメ度:★★★☆☆

【はじめに】

東京ディズニーランド(以下、TDL)にある幽霊屋敷「ホーンテッド・マンション」を中心に、世界のディズニーランド(DL)の「ホーンテッド・マンション」について、半分以上のページが割かれた本です。なので、一般的に流通している幽霊屋敷について書かれた本ではありません。その「ホーンテッド・マンション」には、ヨーロッパの「ゴシック」に関する建築史的・文化的伝統に連なるものがありました。そこからうまれたゴシック小説の影響や、その他にヨーロッパで生まれた様々な技術が、DL(TDL)のアトラクションに生かされているようなのです。

ちなみに、私は一度もTDLに訪れたことはなく、さらに、その現状がどのようになっているのかも知りません。本書はおそらく、TDLの「ホーンテッド・マンション」が好きな人には、それなりに面白いところはあると思われます。

【かんたんな説明】

文芸史的な見方でいうと、現在流通する「幽霊が出そうな屋敷」といったイメージでいうゴシックの幽霊は、どうやらシェイクスピアまでさかのぼれるようです。それから、英国の「墓地派」と呼ばれる詩人たちが18世紀からあらわれ、彼らが後の「廃墟ブーム」への先鞭をつけたようです。プロテスタントによりカトリック教会堂や修道院が破壊され廃墟となりましたが、それは逆に、人々に廃墟への心動かされる感動を催させる源泉ともなったようです。そういった廃墟となった(ゴシック風)建築から、後に「ゴシック小説」と呼ばれるものが生まれたのです。〔注:1〕

破壊されたゴシック建築から連想される「幽霊があらわれそうな雰囲気」とは、ホレス・ウォルポールのゴシック小説からはじまったことは有名です。彼は、「ストロベリー・ヒル」というゴシック風建築物を建てました。この彼に、建築へと導いた要因として、森林が伐採されていく当時のイギリスにおいてあまり大自然に対する畏怖心がなかったことがありました。どういうことかというと、ウォルポール自身がアルプスでの大自然の物凄さに圧倒されるという体験があり、そこから逆に、イギリスの庭園のあまりの貧弱さを(再)認識したのです。彼はこの経験から、イギリスにおいて、理性の対極にあるゴシックのグロテスクさをあらわした建築物をつくろうとしたのです。そこには当然、幽霊が出そうな雰囲気が伴います。

ウォルポールからはじまるゴシック小説が、後に様々な追随者をうんで、ゴシック建築とはまったく関係のない(と思われる)ゴシックロマンが制作されていくのです。「ゴシック」を恐怖に関する意味に転化し、人口に膾炙させたのは彼から続くゴシック小説だということが本書で説明されます。その流れはイギリスにとどまれずアメリカのポーにおよびます。ポーにおける、「アトモスフィア」というものが、「なにかがあらわれそう」という恐怖(テラー)につながり、それは「ホーンテッド・マンション」誕生に寄与した(部分がある)のです。

本書では、その他に「ファンタスマゴリー」(=幻灯機により幽霊を出現させるショー)や、マダム・タッソーの蝋人形館のふたつが、18世紀末のパリで生まれ、19世紀にロンドンに渡り、そこで喝さいを浴び、それらがまた「ホーンテッド・マンション」に重要な影響を与えるのです。この成立史は、なかなかおもしろいのですが、「ホーンテッド・マンション」に興味のない私には、どうでもいいことなので、詳しくは本書で。その他、アメリカのディズニーランドの「ホーンテッド・マンション」のモデルがどうとかの話もあるのですが、それも興味がないので、詳しくは(ry

【まとめ】

「恐怖と同時にロマンチックな感情を誘発する」という、「一種のおとぎ話として誕生したゴシック小説」があり、「ホーンテッド・マンションは、まさにそのようなゴシック小説の世界を、現代に具現化して見せたものである」のでした。その他に様々な文化史的背景を経て「ホーンテッド・マンション」は誕生したわけです。そうして、「おとぎ話の幽霊譚から抜け出してきたようなその姿が、長い歴史を経てファンタジーランドというコンテクストのなかに置かれたとき、ホーンテッド・マンションは『どこにもない建物』として、東京で完成した」のです。そこまでに至る(長い)成立過程を簡単に知るには、うってつけの本です。

[注:1]
ヨーロッパのゴシック建築史や文化史に関しては、酒井健『ゴシックとは何か』(ちくま学芸文庫)(Ama)がわかりやすいです。

(成城比丘太郎)


-★★★☆☆

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