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★★★★☆

『ネクロノミコン』の物語(H・P・ラヴクラフト、森瀬繚〔訳〕/星海社)~読書メモ(40)

投稿日:2019年5月24日 更新日:

  • 読書メモ(040)
  • 「新訳クトゥルー神話コレクション・2」
  • 超ベタなゴシックホラーとして読める
  • おススメ度:★★★★☆

本書は、ラヴクラフト(と、一部の作品では別の人)が書いた、クトゥルーものから『ネクロノミコン』という一応架空の書物をめぐる作物をあつめたものだが、もちろん『ネクロノミコン』自体にこだわることなく楽しく読める。というか、何も知らずに読んだら、まあコテコテのB級グルメ風のゴシックホラーとしておもしろく読めるかもしれない。では以下に収録作品を。

・「無名都市」
・「猟犬」
・「祝祭」
・「ピックマンのモデル」
・「『ネクロノミコン』の歴史」
・「往古の民」
・「ダンウィッチの怪異」
・「アロンゾ・タイパーの日記」
・「アロンゾ・タイパーの日記[初期稿]」(ウィリアム・ラムレイ)

クトゥルー神話とはもちろんラヴクラフトから始まったと思われるもの。それはいわばシェアードワールドとして、様々な追随者や共鳴者や、また時代をさかのぼった先行者を通しても作り上げられているものなので、『ネクロノミコン』もそうしたクトゥルー神話世界の広がりを通して作り上げられたものといえるかもしれない。本書には、その『ネクロノミコン』の初登場からはじまって、色んな形で『ネクロノミコン』に触れられる短篇があつめられている。もちろん『ネクロノミコン』のことを気にせず読んでもよいと思う。

私は、初めて読んだ(と思う)作品もあったけど、それなりに楽しんで読んだ。といいたいところだが、実は最初の「無名都市」と「猟犬」を読み終わって、「あれっ、なんか怖くない。こんなに怖くなかったっけ?」と思った。そのわけはすぐにわかった。本書には詳細にすぎる訳注がつけられているのだけど、それをいちいち本文を読んでいる途中で脱線しながら読んでいたため、怖くなかったのだ。それはどういうことかというと、クトゥルー神話とは、細かい訳注など気にせずに、本文に出てくる魔導書や神名などをわけのわからないままその響きを楽しむものだと分かったのだ。てなわけでそれが分かってからは、訳注は、各短篇を読み終えた後に、気になる部分だけ確かめるだけにした。クトゥルー神話とは、何か分からないけどそこでほのめかされていることに何かしらの言い知れぬ恐怖を味わうところに醍醐味があるのだから。それでもしかし、なかなか有益に思える訳注や解説もあったことだけ付記しておく。

(成城比丘太郎)


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